【経営士のひとりごと】5年後の約束
「5年後、もし、お互い独りでいたら、結婚する?」 夕焼けのまぶしいバスの中でサトルは言った。
「5年後?そうだね。お互い独りだったらいいかもね。」彼女は、少し時間をためて返した。
「その時の結婚式は、職場を全員呼んでさ、派手にゴンドラで登場しようぜ。」
冗談で笑いあって交わした約束。
ドライブ中に、今にも雨が降りだしそうな、ぶ厚い雨雲を見つめて彼女はつぶやく。
「一度好きになっちゃうと、彼のこと以外考えられなくなっちゃうんだよね。」
人生において、人を愛する瞬間や感情が高ぶることはそんなに多くない。
ドイツの哲学者、ショーペンハウアーは「盲目的な生への意志」が人間誰しもあると説いている。
人は目的を達成すると次の目的を見つけ、やがて苦悩するようになるという。
人は最初の恋をした経験、衝撃的な喜びから、回を重ねて少しずつ薄らいでいく。
最初がピークで、あとは右下がりの折れ線グラフのように。
しかし、そうとは限らないのだ。
花火のように突然、恋は弾ける。
そして盲目となる。
出会ってしまった二人。
彼女は、自らの自己実現の欲求から、昇進し、男性社会でストレスを抱えながらも自分に厳しく、何かにあがない、何かに負けないように戦った。
自立した彼女は恋に落ちた。
それは、飛び越えてはいけない壁の向こうへ、飛び越えてしまったように見える。
禁じられた恋に、世間は厳しい目を向けた。
そして、まるでこうなることがわかっていたように、彼女は言った。
「今月で会社を辞めます。ご迷惑をおかけしました。」
恋することの目的はいったいなんだろう?
愛おしさ、快楽、癒し、共感、安楽、寂しさ、尊敬、憧れ、衝動
たくさんあるだろう。
年代に応じて変化する価値観。
しかし、リスクもたくさんある。
浮気、不倫、泥沼恋愛、秘密漏洩、不信感
そして、職場から去っていった彼女。
「いつかまた会える。」
後悔してもいい、また、やり直せる。
あれから、ちょうど5年になる。
彼女は、いまどこで何をしているのだろう?
ある日、突然、道ですれ違う日が来る。
「あの時の約束おぼえてる?」
「そっか。じゃあ、元気で」
雨が降りだしそうな、深夜の繁華街、ひとりでバーに寄ってコアントローを飲んで帰っているところだ。