緋牡丹博徒 お命戴きます(1971)◆シリーズ7作目◆
緋牡丹博徒 お命戴きます(1971、東映、93分)
●監督:加藤泰
●出演:藤純子、若山富三郎、大木実、待田京介、内田朝雄、諸角啓二郎、上岡紀美子、沢淑子、沼田曜一、汐路章、名和広、嵐寛寿郎、石山健二郎、河津清三郎、鶴田浩二
三角マーク波ザブーンからの水面スレスレに小舟が岸に着くところから映画はスタート。
ちょうどそこでイカサマした男をヤクザたちが闇討ちにかかるところ。
巻き添えを食らうように斬りかかられた笠から覗く、片目がキラリ。
お竜登場である。
助けた男から姐さんのお名前は?と聞かれ、「九州は熊本人吉、矢野組二代目、矢野竜子です。」の発声と共にタイトル。
雨の中、墓参りをする鶴田浩二と一瞬だけすれ違う。
ここからまたさらにBGMの一切ない、賭場を背景にタイトルバック。
「出演者 藤純子」を藤純子の顔の横に表示させる美学は健在。
その次、若山富三郎以下、その他の出演者の表示されるタイミングが少し遅いような気がした。
藤純子→……①
若山富三郎→大木実 待田京介→内田朝雄 諸角啓二郎 汐路章 有川正浩 名和宏→……②
鶴田浩二
本当に気のせいかもしれないが、この①と②のタイミングが一瞬テンポが遅いような感じがした。あくまでも「感じ」である。
まるで藤純子(お竜)と、鶴田浩二(結城)の間の距離が離れていることを見せているようにも思える。
当然製作当時はVHSもDVDも配信も想定されていない時代、普通に劇場で見ていれば出演者の字幕など流れていってしまうので、単なる深読みのしすぎか勘違いかもしないが……。
さて、ストーリーの方は典型的な任侠ものなので多少省略。
舞台は上州。工場排水に悩まされる百姓を守るべく立ち上がった結城組の鶴田浩二vs鉱山や警察署長といった国家権力。
そこで草鞋を脱ぐお竜、さらに結城が亡き妻との間に残した子供との絡みが描かれる。
ドスだけでなくピストルの腕も一流のお竜。馬も乗りこなす。
色々あって、結城が闇討ちにあい、無言の帰宅。
そこで嗚咽、慟哭する一同。
急いて敵討ちをせんとする組員たちを諭すお竜。
「結城さんの悔しか気持ちは誰にも負けんほど私にもありますばい!」
からの暗転スポットライト。
そして終盤、陸軍省の閣下のもとへ単身乗り込むお竜。
てっきりここがクライマックスになるかと見せかけて、おもいっきりコメディパート。
料亭の閣下がいる部屋に乗り込むと、芸者の胸に手を突っ込んでいる熊虎(若山富三郎)!この空気の読まなさが最高。
直後、ふんどし一丁で現れた閣下も単なるガッハッハオヤジ。
お竜に抱き着こうとして近づく閣下(オヤジ)だが、簡単に腕を取られ、エドモンド本田ばりに華麗に横っ飛びに投げ飛ばされる。
今までの緊迫感は何だったんだというくらい、一気に雰囲気が緩和される。
こんなふうにいい具合にワンクッション置いて正真正銘クライマックスへ突入。
この辺りの演出に観客を飽きさせない真心を感じます。
単身敵討ちを決意した瞬間のお竜の片目アップのカットが美しい。
最後の舞台は結城の初七日法要の場。
仇敵の富岡組長に向かって放つ「富岡さん、お命戴きますばい!」
殺陣の途中で簪を飛び道具として使ったため、お竜の髪が下ろされ乱れ髪となって戦う。
そして切られた黒い着物の肩口からチラリと緋牡丹の刺青が見え隠れする。
これがまた凄まじいほどに美しい。
富岡との一対一の戦いでは背後には稲妻が光る。
ここも恐ろしいほど美しいが、哀しいラストで幕を閉じる。