悪太郎(1963)
悪太郎(1963、日活、95分)
●原作:今東光
●監督:鈴木清順
●出演:山内賢、和泉雅子、田代みどり、久里千春、杉山元、野呂圭介、小島和夫、木下雅弘、高峰三枝子、芦田伸介、沢井正延、久松洪介、佐野浅夫、東恵美子
ブルーレイで再鑑賞してみたシリーズ。
『悪太郎』(1963)
『悪太郎伝 悪い星の下でも』(1965)
『けんかえれじい』(1966)
と連なる清順監督の「もう一つの大正三部作」(厳密には大正でない作品もあるので、戦前青春三部作?)の最初の一本。
本家の“大正浪漫三部作”のような幽冥と夢幻の匂いたつ芸術性は感じない。
ただ舞台となっている兵庫県豊岡市の街並みを活かしたカメラワークが素晴らしく、額に入れて飾っておきたいレベルのショット連発。ブルーレイで観ると本当に美しい。
美術の木村威夫が鈴木清順作品に初めて参加したのがこの『悪太郎』と言うのは有名な話。
主人公の東吾(山内賢)が地元の少年に案内されて、円山川への途中で狭い路地をブラブラと歩くシーンでは、人物が背景化し石垣の町並みが前面に押し出されている印象。
ここで後に恋人となる恵美子(和泉雅子)を東吾は初めて見るのだが日傘に隠れなかなかハッキリと顔が見えない。
演出上だけでなく実際にカメラもほとんど恵美子の顔を捉えず、日傘の背中を見送ってそのシーンは終わってしまう。
そんな二人が初めて会話をするのが、雨の中、東吾の下宿先の家の門の廂の下。
東吾が、『赤い部屋』という小説の話を振るとその直後二人は声をそろえて
「ストリンドベリ!」
ありふれた魔法で二人だけの国ができあがる。
雨上がりの帰り道。
誰もすれ違うことのできないような狭い道。
狭い路地をその狭さを強調するかのようにロングショットとクレーンショットで歩く二人の後ろ姿だけを捉え、繋いでいく。
すると突然きらきら輝く水面をバックに二人が向かい合ってキスをしている。
唇が触れるまでの間は省略され、台詞もなく一瞬のうちに終わる。
雨上がりの帰り道。
再び二人の歩く後ろ姿を丁寧に映していく。
京都、二人が初めて結ばれる夜。
恵美子の側の障子の奥では炎のような影がチラチラと揺れている。そしてそっと姿見に布をかける。
恵美子は死んだ母親の話をし、東吾が将来の夢の話をしながらお堂の周りを行ったり来たりする印象的な場面。
『峠を渡る若い風』でも同じような場面があったが、あれは旅芸人の娘と学生という明らかに一期一会の二人が別れを惜しむ刹那を<行ったり来たり>の動きをとらせて未来がないことを暗示した演出だ。
それを参照するのであれば、同じように<行ったり来たり>の動きを取るこの二人にも先はないという暗示として読み替えることができる…。
映画は、東吾と恵美子の間に訪れた哀しい最期を描いて幕を閉じる。
恵美子が一人馬車に乗って夕暮れの堤防の道をゆくシーンが映る。
そんな詩的世界が脳裏に浮かぶ。
一瞬の幻のようなシーンはすぐに終わり、なんだか取ってつけたようなナレーションで映画は終わってしまう。
それにしても和泉雅子が可愛すぎる。
「はぁ~」と思わず感心の溜め息がこぼれてしまうような可愛さだった。