こねこ(1996🇷🇺)
Котёнок(1996、ロシア、84分)
⚫︎監督:イワン・ポポフ
⚫︎出演:アンドレイ・クズネツォフ、リュミドラ・アリニナ、アレクセイ・ヴォイチェーク、タチアナ・グラウス、マーシャ・ポポワ、サーシャ・ポポフ、アレクサンドル・フルギン
あまりお目にかかることのない90年代ロシアで製作されたというカルト作品。
ソフトは安定のIVCから。日本語吹替版が収録されていたのでそちらで鑑賞。
タイトルはどストレートにそのまんま。原題も英語にすると"Kitten"。
Kittenと言ったら同じ時期に同じく"こねこ"と名付けられたこの曲を思い出してしまうが、全く関係はない。
とある家族の元で飼われることになった子猫が窓から落ちてトラックの荷台で運ばれ、また別の人に拾われて……というお話。
主人公が誰なのかあまり定まっていなかったり子供向けな展開もあるが、猫が好きな人が猫をしっかり観察した上でていねいに撮影しているなという印象。
お父さんがフルート奏者でお母さんは建築士らしく、部屋の内装やら子供たちの着る洋服とかなかなかの上流家庭のように見える。
猫なんて一日のほとんどを寝てすごしているはずだが、チグラーシャと名付けられた子猫を始め、中盤登場する猫たちが雪の舞うモスクワで縦横無尽の大活劇。
猫で「ちぐらーしゃ」(トラ猫という意味らしい)というのも偶然にしてはおもしろい符合だ。
途中、足を少し大股気味にクロスしながら歩くとその間を猫が交互にくぐり抜けるシーンがある。
昔『世界ウルルン滞在記』でロシアの猫サーカスの回があって、調教師の人が「猫に芸を教え込むことはしない。その猫の個性やクセを利用して、それを芸として見せる」というようなことを言っていた。
でも全編に渡って猫たちが動き回っているので、トリュフォー監督の『アメリカの夜』でも猫が思うように動かなくて何十回とテイクを繰り返すというシーンがあったが、さすがにそんな苦労もあっただろう。
カーテンよじ登ったり、狭いところが好きだったり、靴に頭突っ込んだり、おしっこが激烈臭かったり、窓の外の鳥を眺めたり、背中から落ちても回転して着地できたり、猫の生態を詳細に映像で捉えている。さすがに毛玉を吐くシーンはない。
冬の夜にマンホールの蓋に座るのはそこが温かいからというのはロシアならではの映像。
シャワーやドライヤーは嫌がらないのだろうか。それは猫によるのだろうか?
途中、マーニャとサーニャ姉弟がやっている謎のファミコンのスト2みたいなゲームが何なのか非常に気になった。
テレビのF1の映像に映ってたのはミカ・ハッキネンか?ゲルハルト・ベルガーとジャック・ヴィルヌーヴのバトルシーンもあった。本筋とまるで関係ないので監督の趣味だろうか?
姉弟がするオーロラの明かりの下をたどって北極から歩いて帰ってきた猫の逸話と、真夜中まで灯るモスクワの街の明かりを重ね合わせるような場面は良かった。
"ペット市場"→"お金持ちの家"→"流浪"→"貧乏男の独身アパート"……このチグラーシャがたどった旅路を追いながら「ブルジョアとプロレタリアの間を行き来したその先は…」とか「ロシアの干支では猫が…」とか「ドーベルマンはドイツの象徴で…」とかどうでもいいことを考えながら観ていたけど、猫たち大活劇のシーンあたりでどうでもよくなって素朴に楽しんだ。