谷岡ヤスジのメッタメタガキ道講座(1971)
谷岡ヤスジのメッタメタガキ道講座(1971、日活、84分)
●原作:谷岡ヤスジ
●監督:江崎実生
●出演:松原和仁、アタック一郎、三波伸介、藤江リカ、武智豊子、相川圭子、悠木千帆、川口英樹、佐瀬陽一、沢知美、川奈ミキ、若水ヤエ子、安東結子、涌井智美、桜京美、郷鍈治、南利明、笑福亭仁鶴、カルーセル麻紀、前田武彦、宍戸錠
元々は谷岡ヤスジ原作のギャグ漫画。
ギャグ漫画を映画へ翻訳ではなく、そのままギャグ漫画として転写した結果、そこに広がるは狂気と妄執に満ちた能天気な地獄といった様相。
教科書には「きょうかしょ」と書かれ、警察署には「ケイサツ署」と書かれる等、不必要なものは省略化されたり誇張するところは徹底的に誇張するという漫画的手法がふんだんに使われている。
それにしても本作が表現したいことは何なのか?
そりゃまあ漫画を映像化したらこうなった、ということかもしれないが観る側にとってこの「無意味なまでの過激さ」を鑑賞する意義はどこにあるのだろう?
台詞にしても動きにしても、生きた人間の情緒というものはない。
ファンタジーAVからポルノ表現を差し引いて主役を子供にしたというような、あまりに不自然で決して存在しえない世界線を見ているような。
常識も、モラルも、コンプライアンスも、ポリティカル・コレクトネスも、フェミニズムも子供の人権も初めから存在しなかったかのように消し去られた、全てがマイナスの第3象限的世界観。
良心を持たない登場人物たちが人道を外れて陽気にノーブレーキで暴走していく様を寒気を感じながら見つめていたこの感覚、『時計じかけのオレンジ』を初めて観た時を思い出した。
主な登場人物
オラ山ガキ夫…小学生。テストは普通の足し算が出ているので1,2年生?
オラ山キン太…赤ん坊。
オラ山ダメ次…お父さん。三波伸介。
オラ山メタ子…お母さん。
オラ山ウメ…お婆ちゃん。
性欲の発露を子供たちの前で微塵も隠さないお母さん。
ガキ夫はセックスを見に行こうと同級生の女の子を誘って夜の公園へ。見本を見せると言って警官が服を脱ぎだし、その女の子にキスを迫る。
メタ子がキン太を投げ飛ばすと、ゴルフボール状の二つの目玉がコロコロと転がる。
ババアはボディビルダーの写真集を見ている。
ガキ夫とキン太が両親の頭を包丁で切り裂くと、頭の中にハナクソや塩コショウを混ぜた粉末を投入。
父親とガキ夫がバーでビールの飲み比べ勝負。勝ったガキ夫は賞品とばかりにママさんのおっぱいを吸う。
映画中盤、学校帰りのガキ夫が友だちとこんな会話をしている。
「僕もう勉強なんてしないもんね」
「お酒飲んだり博打してたほうがたのしいもんね」
「そうだそうだ!みんなで女の子をドぎつくするもんねー」
あまりの無法さ、乱暴さには映画への冒涜、映画の破壊と見られてもおかしくない。
製作者、演者ともに「これは映画であり、お金を払ったお客さんが鑑賞している」という意識がまるでないような…そんな気さえしてくる、正にアナーキーな映画といえる。
(↑こちらのガイドブックにも掲載)