木と市長と文化会館 または七つの偶然(1993🇫🇷)
原題: L'arbre, le maire et la médiathèque ou les sept hasards(1993、フランス、105分)
●脚本・監督:エリック・ロメール
●出演:パスカル・グレゴリー、ファブリス・ルキーニ、アリエル・ドンバール、ジェシカ・シュウィング、ギャラクシー・バルブット
あるフランスの田舎町を舞台に、市長による文化会館建設の計画とそれに反対する人々とのやりとりをめぐる物語。
例えば”町を二分するようなドタバタコメディ”みたいなテイストにはならず、ロメールらしく淡々とした会話劇として進むが、筋道だった討論として見ていて非常に見ごたえがあり派手さはないが体感視聴時間としてはあっという間であった。
テーマとしては『噂の東京マガジン』的な、現代の日本から見てもありがちな地方行政と住民間のトラブルを描いている。
左派を自称する市長としては未来の子供たちや訪問客を増やすため、つまり町おこしとしてプールやメディアセンター、劇場も備えた総合文化会館を建設しようとしている。
映画のもう一人の主人公、ロシニョル校長はエコロジスト的観点や「風景も芸術だ」という持論を掲げ、予定地に村を象徴する大木があることから建設に反対。
市長の愛人の作家も、国政進出の足場固めとして地盤を強固にしようとする市長に「あなたはパリっ子よ」と看破しつつ、「都会の人は田舎に文化会館などではなく緑を求めにやってくるのだし、地元の人に文化会館は必要ない」と言い放つ。
極めつけはラスト、ロシニョル校長の娘ゾエと市長の娘がたまたま会い、一緒に遊んでいるところに市長が遭遇。
ここでもよくあるコメディ映画ならタメにタメた後「え!君、校長の娘だったの!?」的なベタな展開に持っていくチャンスではあるが、そうはならずサラッと「ああ校長の娘さんだね」とスルリと流していく。
この軽さが良い。
ゾエは市長に対して文化会館建設反対意見を滔々と述べていく。
市長からすれば、筋は通っているが予算や補助金の都合という現実的視点が欠けている彼女の意見は理想主義的すぎるところだがそれでも十分説得力あるものであった。
この子供と大人が対等な感じ(劇中の市長がどうとらえているかは置いておいて)、少なくともロメールは対等に扱おうとしているという姿勢がとてもいい。