鑑賞の思い出その9 『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』

基本情報

主演:西島秀俊 (芦田愛菜)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、トミー・チャン、石井康晴、元井桃
主題歌:アイナ・ジ・エンド「宝者」
あらすじ:夏目俊平は数々の著名オーケストラと組んできた実績のある世界的な指揮者だったが、5年前の「ある事件」をきっかけに業界から離れていた。一方、俊平の娘であるも事件をきっかけに父や音楽を憎むようになり、静岡県晴見市の職員として音楽とは無縁の日々を送る。ある日、妻の志帆からの呼び出しで帰国した俊平は成り行きで廃団寸前の地方オケ「晴見フィルハーモニー」の再建を任される。

明けましておめでとうございます。新年一発目の記事というわけで、1年前の日曜劇場の感想記事を書きます。1年前の月9の記事もさっさと書かないと……。
ドラマを本格的に見るようになったし有名な枠の作品を見てみよう、なんか芦田愛菜も出てるし!という程度のノリで見始めた本作はサスペンスとヒューマンが二大ジャンルである(昔はラブロマンスも多かったみたい)日曜劇場だと明らかに後者寄りの作風。今回であればオーケストラという特定の題材に仮託して家族や団結、贖罪といったテーマを描く。

全体的な評価を言うならまあ悪くは無かったと思う。というか初回と最終回に搾れば割と傑作。まずロケ地が静岡なので外のシーンの度に美しい富士山が拝めるという利点もあったりする(住んでると飽きてくるらしいけど)。そもそも今作を見続けるモチベーションになっていたお気に入りのシーンは第一話終盤にあって、ティンパニの女の人のトラウマ(とは言え大事な吹部の大会で急にティンパニが頭真っ白になって滅茶苦茶やりだしたらあんな目にもなるよね……打楽器のプレッシャーがやばいのは有名な話)を克服するべく彼女の心情に合わせてベートーヴェンの「運命」に独自の解釈を与えていくあの場面。オーケストラものとしてかなり上手い話の運び方だったし、主人公の人柄の誠実さも出ていた。各回で披露されるオーケストラ演奏も普通に美しいし、アパッシオナートという語は連呼してるけどさよならマエストロって今一つ意味が通じないなあと思っていたら最終回で粋な回収の仕方をしてくれた。先程も述べた通り主人公が音楽家キャラにありがちな俺様や情緒不安定では無く程良いお人好しなのでシリアスな山場でもあまりストレス無く見られたと思う。西島秀俊の日曜劇場出演は′15年の「流星ワゴン」以来らしいけど(実は原作既読)、今回演じた俊平も父親としての姿はどこか重松清的なところがあったように思われる。多分そう言う人柄は悪くないはずなのに何故か上手くいかなくて心が揺らぐ、みたいな演技が似合う人なのだろう。

一方で、踏み込んで評価しようとすると色々問題点が見える作品でもある。最も指摘したい要素として挙げられるのはあらすじにも書いた「ある事件」の扱いについて。第5話で真実が明かされる!と煽っておきながらそこでなされた説明はあまりにも抽象的で、最終的に第9話終盤で色々補足が入ったもののその内容は一言でまとめるなら「響の積年のルサンチマンの偶発的な爆発」であり、事件呼ばわりするには観念的過ぎるし心情変化がグラデーション過ぎる。結果的に響の行動原理に物語的な説得力が生まれず、前述の父親の良心的な描かれ方も相まって比べて見たときに単なるヒステリックな反抗期娘という印象が強くなって、和解のカタルシスにも悪影響が出るんだよね……。
それ以外にも、これは多くのビューアが指摘する通りだけど全体的に恋愛に関する描写はどれも十分な必要性があったか疑問だし、前半で存在感を発揮していたオケ廃団派の市長が一度言い負かされて以降は用済みと言わんばかりに出番を失ったのも気になるし、俊平の父親にスポットを当てた第8話では散々2人の不仲について掘り下げておきながら(そりゃあ団体競技である野球で甲子園をすっぽかしてオーケストラ聞きに行かれたらキレるよね、いや父親は父親で典型的な昭和オヤジで息子の変節の理由が隣人のシュナイダーという指揮者にあると分かるや否や何の遠慮も無しに殴り込みに向かうのは人格が凶暴過ぎてちょっと…って感じだけど)結局彼が俊平を許した理由が「四半世紀以上経って気持ちが収まった」だけなのはドラマとして魅力に欠けるように思った。

色々書いたけど、先述の通り最終回の印象が良いおかけで全体への概観はかなり底上げされているし、好感度俳優2人の好演によって多少の脚本のキズには目を瞑れた作品だったと思います。そもそも同じ冬クールに見ていた他2本に比べれば日曜劇場としての風格は保っている分かなりマシだし……。

最後に主題歌は1発で耳に残るかなり良い曲でした。もっともオーケストラものなのでラストシーンはクラシックで締める話も多く、放送時間で21:35くらいの早くから流れ始めた回もあってそれはもう挿入歌じゃね?と思ったこともある。


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