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立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 9(1)研究(公開)授業の準備は大変です。


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皆さんが子ども時代、学級にたくさんの先生達来て、メモを取るなどして授業参加していた事を覚えていませんか?それが研究(公開)授業です。
                                                                         
4年生3学期(2007年  H19年)


50   研究(公開)授業
  そうしている間に、2学期も終わり、冬休みへと入りました。年末に、3回ほど、夏休みと同じ様に、午前中に時間を取って訓練をしていました。年が明けると、始業式まで10日間程訓練のない日が続くことになります。
 私は、もう訓練が後戻りすることを心配はしていませんでした。恐らく、殆ど変化無しに始業式を迎えることが出来るでしょう。滉燿くんは、昔の滉燿くんではないのです。
 訓練のことは差し措いて、私の関心事は研究授業でした。
 研究授業では、授業の進め方をまとめたものを作らねばなりません。これを指導案と言います。年末までには書き上げるつもりだったのですが、なかなか作業が進みません。3日間で完成させるつもりでしたが、頭が回転せず、なかなか先へと進みません。体調が悪くて根詰める作業は苦しくて、2時間以上、パソコンに向かってキーボードを叩くのは、きつい作業でした。
 薬の量だって全然減ってはいません。周囲からは普通に見えたかもしれませんが、毎日、風邪を引いて仕事をしているようなものでした。『無理は禁物・・』自分に言い聞かせながら毎日少しずつ指導案を書いていきました。
 時間は充分あるはずです。そのために早くから取りかかったのですから・・・。年が明けて1月7日になってようやく一応書き上げることが出来ました。
 しかし、これで完成ではありません。3学期が始まってからは、同じ特別支援教育部の先生達に指導案を見せて、意見をもらわなければいけないのです。これを指導案審議と言います。
 放課後、私を含めて5人の先生達が集まります。指導案を読みながら、誤字脱字はもちろん、授業の展開についても質問や意見が出されます。
「ここでの学習活動は、何のためにやるの?」
「これまでの学習の写真を、ホワイトボードに並べて、子どもの理解を深める様だけど、先生の話の前に並べておいた方が良いのではないか?」
「板書や発問の仕方は、どの様に用意しているのか?」
 質問に答え、意見をもらいながら、指導案を細かく書き直して完成させしていきました。
 年が明けて3学期が始まりました。研究授業に備えて、滉燿くんに嵌め絵パズルの練習をさせていました。嵌め絵パズルは動物園をテーマにした物で、コアラ、象、猿の絵が、それぞれ、大きさや形が違った、三つの絵のピースに分かれています。
 はじめは、全然入れることの出来なかった滉燿くんでしたが、練習の甲斐あって、ピースを正しい穴の所へ正確にもってくることは出来るようになっていました。
 しかし、手を細かく使うことや穴にうまく入れるためには、方向を細かく調整できずに、うまく入れることが出来ていません。最後にパチンとはめ込むためには、私がピースを少し動かして方向を調節する補助が必要でした。
 授業がスムースに行くように、何度も繰り返し練習をさせました。
 1月半ばの事です。いつものように、滉燿くんにパズルをさせていました。その横で、私は次の学習の準備をしていました。ふと、滉燿くんがやっているパズルを見て、びっくりしました。いつの間にか、コアラのピースが全部入っているでは有りませんか!信じられないと、もう一度ピースを外しました。
 滉燿くんは、ピースの上についている小さなとってを掴みます。もう一方の手でピースの本体を支えながら、自分で細かく方向を調整してピースを穴にはめ込んでいました。滉燿くんはいつの間にか、私の助けを必要とせずに、自分で判断して出来るところまで進歩していたのです。
「これを見た人は驚くぞ」
 授業を見に来た人達がどんな顔をするか楽しみになってきて一人喜んでいました。


 研究授業まであと1週間になったので、私は滉燿くんと授業の案内状を作りました。案内状の下地にするため、お手紙用台紙集から、3枚ほど、良さそうなお手紙台紙を選び出します。コピーをとり、適当な大きさに切ったお手紙用台紙を机の上に並べて滉燿くんに聞きます。

「3つの内のどれが良いかな?」
『これ』と、一つのお手紙用台紙を選びます。
 手紙用台紙が決まったので、私達は手紙を飾るイラストを2つ選びました。これをコピーして切って貼り付ければ完成です。はさみで切るのは私の仕事ですが、滉燿くんは、切っている間に紙を持って支えているという参加です。切り取ったイラストの裏に、私がのりを付けると、滉燿くんの手に持たせて貼り付けさせます。
 お手紙台紙が出来たので、私が適当な案内文を書いていきます。『1月30日、3校時に、出来るようになった事を発表します。ぜひ見に来てください』と書いて見せます。
 文を読み上げます。滉燿くんにもっともらしく聞きます。
「これで良い?」
 滉燿くんがOKサインを出して招待状が出来ました。
 招待状が出来たので、印刷して先生達に持っていきました。
 持っていく前に、教室で招待状を手渡す練習をしました。『ボクの名前は、お・く・む・ら・こ・う・よ・う・です』。手話と指文字を交えて、自己紹介します。続いて、招待状を手渡して、手話で『よろしくお願いします』をしました。
 こうして先生達を一人ひとり回ると、みんな喜んで応対してくれました。
その場で招待状を読んで、
「がんばってね」
 握手をしたり、頭をなでてくれたりしました。滉燿くんは、手話で『よろしくお願いします』をした後に、
「ぎゃははっ」
 両手を頭の上で交差させながら、大笑いで、足をバタバタさせて、大喜びをしていました。準備は完了、後は当日を待つだけです。


立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 9(2)研究(公開)授業の本番


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