4時間越えの大作映画『至福のレストラン 三ツ星トロワグロ』と『親密さ』を鑑賞してきました
たびたびお邪魔している上田映劇さんの姉妹館であるトゥラム・ライゼさんで、大作映画を鑑賞してきました
4時間近くある映画を観る、というのは眠くなったり体力が続かなくなったりするのではと不安だったのですが、どちらも面白く、他にない体験の出来る、4時間という長さが必要であることに納得のいく作品でした
1つ目はこちら、『至福のレストラン 三ツ星トロワグロ』です
フレデリック・ワイズマン氏の作品は初見なのですが、シンプルに拝見できる、清々しいお仕事映画でした
何代も続くフレンチの名門のトロワグロ家が経営するレストランとオーベルジュのドキュメンタリーですが、家族や店舗ごとの紹介や、お店のこだわりや運営の工夫のルポとか、家族及び有能なスタッフのインタビューとか
そういうのがまったくない、ナレーションもBGMもない、ただひたすら厨房のお仕事ぶりを、賑わうフロアの会話やざわめきを、食器が触れあい魅惑的な料理が供されるさまを、見つめ続けられるドキュメンタリー映画だったのです
超一流のレストランってのはこういうもんなんだ、それがよく分かる
何せこの映画は4時間近くもあるのに関わらず、トロワグロ家とスタッフの皆さんの仕事ぶりが気持ちよすぎて、ずっと眺めていられた
お店で過ごしたような体験を得られるドキュメンタリーでした
これまで自分が見聞きしてきた、それこそテレビなどのドキュメンタリーだったら、お料理の値段は幾らなのかとか、スタッフさんたちのお名前は何なのか、休日は何してるのか趣味は何だとか、そういう情報を入れたくなるところです でもまったくそれをしていない カメラは生のままのお店の様子を見つめ続けている
仕事をしてる人、料理をしてる人って魅力的ですが、このトロワグロ家の皆さんのドキュメンタリーとして、最適解なのだと思いました
今年になって、ドキュメンタリーの映画というものをいくつか観ていますが、わりとどの作品もナレーションや解説は最小限で汲み取らせて感じさせる作りだった この作品はその中でも一番、説明がない だって観れば分かるから
こんな映画が、レストランがあるんだなあって惚れ惚れしてしまう作品でした
2本目はこちら、『親密さ』です
今年の夏に鑑賞した『悪は存在しない』の濱口竜介氏の2012年の作品です
4時間あまりの映画の前編と後編で、大きく様相が変わる作品で、前編は劇場での公演に向けて稽古をしている、その間に起きる劇団員同士のいざこざに、脚本家と演出家の対立と、ふたりは同棲中の恋人でもあるために起きてしまう言い争いなどを、物陰で観察しているような、この劇団はとても無事に公演を成し遂げられる気がしないドキュメンタリーのような内容で、
後編はずっと準備に試行錯誤してきた公演の様子をひたすら鑑賞できる、演劇作品が丸々一本、映画の中に入れ子構造で仕込まれている作品で、ドキュメンタリーにあたる部分も演劇本編も、とても見ごたえのある面白さでした
というか無事に公演できて良かったね…
と、その点にまず震えてしまった
言葉を発することと受け取ること、返すことの困難が様々な場面で示されている映画で、
言いたいのはこういうことではない、話しているうちに内容がそれてしまう、うまく言えないもどかしさや、口に出したり書いたりしたことが、相手に伝わらない、どう伝わっているのかすら分からない無力感を描いている場面が多くあり、会話であったり、議論であったり、メールであったり、詩であったり、SNSであったり、それはさまざまで、
発した言葉が思いがけない力を持って、他者に影響をあたえてしまい、発した側もそれを制御できないこと
あるいは発した言葉が誰にも届くことはなく、打ち捨てられて、忘れ去られてしまうこと
でも思いがけない拍子で、また言葉が拾われて、でも発した側はもうそれを覚えてないこと
言葉の持つ力のままならなさ、限界をいくつもの場面で、脚本が書かれる過程でも、演じられた劇のなかでも示してくる
だからこの長きに渡る映画に対して
“この映画はこういうことを語りたいのではないか“という見解を示すのは、適切ではないとも思います
でも、別れ別れになってしまった2人が、最後の最後で言葉によらない(すごくロマンチックでドラマチックが過ぎる)やり取りができたのは、それまで言葉を交わし続けて、別れてしまっても2人の間に交わされたいくつもの言葉を、それを忘れてなかったからこそできたことだから
だから、言葉を発すること、やり取りを交わすこと、それが出来る相手と出会えること、その幸せを響かせてくれる映画であり
言葉を発すること、交わすことのままならなさに、疲れて諦めたくなっても、拙くても言葉を、文章を綴ることで成せる何かはきっとあるって、祈る映画でもあったんじゃないか
前者のトロワグロ家のレストランはドキュメンタリーで、後者の演劇はドキュメンタリー的に鑑賞できるフィクションですが、はっきり言語に拠らず見せてくれる作品と、言葉との交流を突き詰めたドキュメンタリーのような作品、という点で対称的でも通じるところもあると自分としては感じたので、並べた記事にさせて頂きました
迫る年の瀬ですが、年末にかけてもう少し、上田映劇さんとトラゥム・ライゼさんで映画が観たいです