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『オーリエラントの魔道師たち』 乾石智子 感想文
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四編の短編集で四つの異なる魔法を操る者たちの話ですが、いずれの話にも共通しているのは日々の手仕事を惜しまずに、己の技能に研鑽を重ね行動を省みて、力を得た者が成すべき事を見据えている、覚悟と肝の座りかたが実に好ましい、清々しい人たちの話でした
『陶工魔道師』は陶芸の工房を構えながら、その焼き物に呪力を込めることのできる、陶器の魔法使いの話
粘土を掘り出し、呪言を込めて練り上げて、釉薬を調合して焼き上げるその過程の描写がすごく面白い
『闇を抱く』は生まれた家でも嫁ぎ先でも、理不尽な境遇に耐えることを強いられた傷付いた女性たちが、お呪(まじな)いと魔法をもって互いを救っている話
しかし魔法は当世においては禁忌であり、社会からそれを秘匿する組織も作り上げている
いわゆるシフターフッドものでもあります
『黒蓮花』はかつて故郷を滅ぼされた魔法使いが、その仇を探し出し、復讐を成し遂げる話
途中から語り手が変わり、誰が復讐の魔道師なのかとざわつく展開になる上に、前二篇とも違う魔道師対魔道師の戦いの描写も面白く、昏い復讐譚だけど読後感は晴れやかな話
『魔道写本師』は元々魔道に縁の無い写本師の出来の悪い見習いだった少年が魔道書の写本を手がけたことにより、己の技術を磨くこと、たゆまぬ研鑽を積むことの面白さに目覚め、文字を綴る事で発する魔法の術をも身につけた話
他三編にも共通する、“その力を使って何を成すべきなのか”という、力を得た者の使命と責任に踏み込んだ話でもあり、そして日本の怪異譚にも通じる風味もある、力強く楽しい話でした
四篇ともに面白く、味わい深く、ベスト回を選ぶのが困難極まりないです そんな短編集はなかなかないですね
なお、ある一編で、猫に暴力を振るう人物が登場するのですが「にゃんこを蹴るなんて人間じゃねえ」と忌々しそうに罵る文言が4、5回繰り返し出てくるので、うっかりほっこりしてしまいました
ちなみにその蹴られたにゃんこは、本物のにゃんこではなく魔法使いが変身したものなので、実際には生にゃんこは蹴られてません
でも、いくらフィクションでも、本物でなくても、猫が蹴られる場面を書くのは、作者さんはすごくしんどく感じていたんだろうな、絶対猫好きだな、とニヤニヤしてしまいました
乾石智子さんの作品は初読みだったのですが、これはすごい、素晴らしく面白い
ご紹介が無ければ読む機会が持てなかった作家さんでした
ちなみにご紹介して下さった記事はこちらです
人物画もにゃんこ絵も、思い入れを熱く語って下さる感想文もすごく素敵です
ひろうすさん、ありがとうございました