
『ルート29』と『とりつくしま』の感想と上田映劇さんでこんな企画ができたらなあという記事
上田映劇さんとトラゥム・ライゼさんで鑑賞した映画感想をまとめる記事、本日はこちらの『ルート29』と『とりつくしま』をご紹介します
その後で、関連する映画をもうひとつご紹介するパートと、上田映劇さんでこんなことが出来たらなあ~と妄想しているパートもありますので、お好みにあわせてご覧下さい
ルート29

社会的な生活を送る事に困難さを感じているらしき大人と、豪胆で自由気ままそうに一見見える子供のロードムービー
兵庫県の姫路から鳥取にかけた国道29号線を辿る物語で、その中で大人と子供の仲が深まっていく、というハートフルな展開には全然ならないし、何だったらロードムービーという形態からは外れている物語かも知れない
ふたりには時折道連れになる、迷子の犬を探す婦人、渓流釣りに山に来た親子、横転した車に乗っていた老人などがいるけど、その誰もがどこか不吉でずれている印象で、そもそもふたりの道行きの風景がどこか現実離れしている、あの世っぽさがあった
この旅の目的は子供を母親に会わせることだけど、その母親も、彼女が入院している病院も、不意に立ち寄った場所に暮らしていた大人の方の姉も、彼女が教員をやってる小学校も、全てが現実味の揺らいでいる雰囲気で、この映画は彼岸に迷い込みかけていた2人が生き延びるまでの話、だったのだろうか
それともみんな、亡くなっている話なんだろうか
何とも言えない
生者と死者の境が曖昧な世の物語って、意識して選んでいる訳ではないのですが、不思議と最近よく見聞きする気がします
そういう巡り合わせなのか、それとも世の中に良くある、需要のあるモチーフという事なんだろうか
すごーく、意地の悪い言い方をすると、
そういう作品ってすごい名作が既にあるので、よほどの新機軸が無いと作るのは難しいと思うんですね
この作品にしかない雰囲気はしっかりありました
旅の道連れの子供の方が特に、子どもらしい愛らしさだとか大人びた表情とか、そうした子役に求められがちな要素を超越した存在感でした
でも存在感とか雰囲気だけでは、映画として頑張って観てこっちで組み立て直さないといけないから疲れるなあーってのと
組み立て直す気力が起きる作品かと言ったら、そこまでではなかったのです
綾瀬はるかさんが演じる人物が、姉と対話する場面は凄く好きです
旅の途中で突然訪ねたふたりを甲斐甲斐しく世話をして、宿も食事も提供して、体調を崩した子供の方の看病もしてくれた姉がその夜に、「お前は本当は冷たい子よね、私のことなんか何とも思ってないのよね」と一方的に詰めてきて、「お前は聞き上手だね」「昨日の夜の事は忘れてね」と送り出してくれる流れなのですが、訳が分からない妹の気持ちも、過去からの鬱屈で急に口から恨みが止まらなくなったのであろう姉の気持ちも、直感的に分かってしまった

とりつくしま

日用品や消耗品や街角にある設備などの無機物にとりついて、生者の世にとどまる選択をした死者たちの物語
結婚して間もない妻、もうすぐ小学生になる男の子、孫を溺愛するおばあちゃん、息子の部活動を応援するお母さん
それぞれの“とりつくもの”の選択が、まだ生きている愛する人たちとの関わり方や、本人の性質を端的に表していて、憑いた品物ならではの視点や感覚がコミカルで、でも自身の亡くなった悲しみも、残された人たちのしんどさも、抜かりなく描写してくれる安心感がある映画でした
中でも、死者の群像劇のような『あおいの』がとても好きです
映像だけで心情が汲み取れる、死者の心残りと生者との絆も執着も分かる、伝わる気持ち良さに溢れていました
心残りを抱えた死者たちが少しでも癒されるように、とりつくものをさりげなく引き出して、聞き出してくれるガイド役の小泉今日子さんもとても素敵だった
死者の面談の場所が小学校のカウンセリングルームみたいなお部屋なのもいいです ポスターになっているだけの事はある
同じ日に観た『ルート29』も、現世と彼岸が入り交じったように感じられる映画でしたが、こちらの作品の方が娯楽作品として楽しみやすく、人に勧めやすいと感じましたし、原作小説の作家さんとこの映画の監督さんが母子なのも、ぐっときます
でも、それでもあえて難癖を付けるなら
とりつく先を選ぶ死者たちが、家族や肉親の事を思う人達しか居なかったのがやや引っ掛かりました
現世への執着、心残りの対象が人間以外のものである人物がいてもいいのにと思う
映画をもっと観たかったから、映画館の映写機にとりつくとか
美術品が好きだから、美術館の柱とか床にとりつくとか
自分では入手できなかった愛着のある図書館の本にとりついて、何年も借りられなくて書庫で涙する(もう目はないけど)とか、
仕事に打ち込んでいた人なら職場の備品とかになってもいい
死者の心残りに多様性がもっと欲しいです、欲を言うなら
あと自分が今、死んでしまったら何に取り憑くか? と考えると、親しい人や執着してしまう人の側に居ることは、まずしないとも思います
だって自分自身が、身近に死者が出たとして、自分の近くの何か憑いていたらそれは嫌だもの
どんなに側にいてほしい人でも、早く成仏してくれ という気持ちにきっとなる
自分が死んだ後の、誰かのプライバシーに干渉することはしたくないです
この映画の登場人物死者さん及び、残された人たちの思いはとても純粋で、美しく感じるものばかりだったので、尚更自分は縁遠いなと思ってしまいました いい映画ですけどね!
そう言えば、魂があるものにはとりつけない、という説明があったのだけど、美術品や骨董品はどういう判断になるのか気になりました
推しの仏像や絵画にとりつきたい! と願い出たら、魂が入っているから駄目ですって言われたらそれはそれで激熱ではなかろうか
魂が込められてるんだ…!! と、推しへの尊さと喜びで昇天しちゃうオタク死者が居ても良いです

現世と彼岸の間を舞台にした映画と言えば
個人的なおすすめは、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』です

人生の中で1番印象的だったこと、幸せだった思い出を回想するための映画を作る施設に集まった、死者たちの群像劇で
ただひとつの思い出と共に、あの世に旅立つための映画を作る共同体で一週間過ごす、というファンタジーな世界観なのですが、映画を製作するドキュメンタリーのような場面が多くあり、本当にみんなが映画を作ってる手応えを感じますし、撮影場所である独特なレトロ感のある施設の素敵さも見ごたえあります
映画作りを行う死者たちは若くして亡くなった人、おそらくは天寿をまっとうした人も居るし
幸せだった瞬間を思い出せる人も、選ぶことを迷う人も、拒否する人もいる
そして、ついに選ぶ事が出来なかった人はどうなるのか? という真実もほろ苦い、好きな作品です
あったらいいなこんな上田映劇さんの企画
この『ワンダフルライフ』ですが、映画を古い建物で撮影しそれを鑑賞するという映画であるため
それこそ自分の推しの上田映劇さんが上演してくれたらぴったりなんじゃないかと思うのです


映画館で映画を上演するにあたり、その使用料あるいは上演権ってどういう扱いになってるのかは疎くて分からないのですが
そうした手数料を支払いして、上田映劇さんに上演リクエストをするシステムがあればなあと思うんですね
すると上田映劇さんで推しの映画の鑑賞も出来て、映劇はんこも作って頂けるじゃないですか!
どうでしょうか、難しいかなあ
この『ワンダフルライフ』もとてもいいですし
実はアニメ映画のリバイバル上演とかもして欲しいんです


うちにDVDはあるんですけど、上田映劇さんで鑑賞してみたいなあって、ひっそり妄想しているのでした