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5日間普通列車だけで日本縦断した話-2日目

こんにちは。ゲンキです。

今回は「5日間普通列車だけで日本縦断」旅行記の2日目をお送りします。それではどうぞ!

~あらすじ~
JR日本最南端の終着駅「枕崎駅」から日本最北端の終着駅「稚内駅」までを青春18きっぷ1枚を使って5日間で走破する旅 (2022年3月実施)。1日目は枕崎駅から新山口駅まで辿り着いたが、2日目はどこまで行けるのか。

↓1日目をまだ読んでいない方はぜひこちらからどうぞ。


2日目 新山口

スマホのアラームで目が覚めた。眠い。
昨日16時間半列車に乗り続けた疲れを癒す暇もなく、2日目も早朝5時3分発の始発列車に乗らなければならない。真っ暗なうちから旅を始めるのは18キッパーにはよくあることだ。ところで今は何時だろうか…?

時計を見ると、4時55分。

ん?

乗る予定の電車は5時3分発。

「寝 坊 し た !!!!!!!!!!」

ヤバいヤバい!!!とベッドから飛び起き、散らかったままの荷物を全力で片付ける。なんで寝る前に荷造りしとかへんねん昨日の俺!!!!!幸い今泊まっているホテルは新山口駅前の東横イン。目の前に駅があるのでダッシュすれば間に合うかもしれない。力づくで荷物を押し込み、高速でチェックアウトし、50メートル走並みの全力疾走で駅へ向かう。残り2分、不可能じゃない!間に合ってくれーー!!


いない。

電車がいない。

時刻は5時5分。思い浮かぶ言葉は一つ。

乗り遅れた。

ひとまずベンチに座る。どうしよう。寝起きで頭も回らない。まず状況を把握するのに1分ぐらいかかり、どうにかして後続の普通列車で追いつけないかをネットで探る。そんなことは不可能だと頭の中ではわかっているが、それでも小さな希望にすがるほかなかった。やらかした。モーニングコールを頼んでいれば、もっと早く寝ていれば…と後悔ばかりが湧き上がるが今更どうしようもない。スーツケースを開くと、歯ブラシやら下着やら色んなものが入ってなかった。乗れたとしてもどっちにしろ後悔していただろう。

しばらくして代替ルートの目処が立ち、一旦ホテルに戻ることにした。フロントで事情を話して部屋に入れてもらうと、やはりあちこちに忘れ物が散らばっていた。1日目に引き続き散々なスタートだ。


第11列車 5:53発 普通 岩国行き

227系

予定より50分遅れで新山口を出発。
黒い空がだんだんと白み、電車の乗客も増えていく。朝一発目からもう疲れ切っているが、今日は5日間で一番の長距離移動をすることになるのだ。自分で自分を苦しめてどうする。

年1レベルの絶望を味わった

徳山駅に到着。ここからある手段を使って遅れを取り戻すことにした。そのある手段とは……


第12列車 6:41発 ひかりレールスター590号 岡山行き

新☆幹☆線

タイトル破綻2回目!!!!!

苦渋の決断ではあったが、もはや普通列車縛りを無視してチートを使わなければどうにもならなかった。まあ1日目も特急使ってるから今更どうでもいいや、となった面もある。

周南コンビナート

新幹線は凄まじい加速で走り出した。右手の周南コンビナートをじっくり眺める間もなく通り過ぎていく。ここまで速いと九州から地道に在来線でチビチビと進んできたことが実に馬鹿馬鹿しく思える。でも普通列車で日本縦断という発想がそもそも馬鹿なので何も言い返せない。
もともとの予定では新山口5:03→7:08岩国7:12→8:08広島というように移動するはずだったが、新山口で始発列車に乗り遅れると広島到着は1時間遅れ、三原に着く頃には2時間遅れにまで拡大する。そのまま乗り継いでも普通列車だけで行ける限界は静岡県の御殿場であり、東京どころか神奈川にすら到達できなくなってしまう。当然、3日目の行程も崩壊する。

せめて東京まで行ければ問題はなかったのだが、静岡止まりとなると話は変わってくる。ここは元の行程に復帰することが重要だと考え、新幹線に課金してワープを実行するに至った。

新岩国駅

列車はものの十数分で新岩国に到着。徳山〜岩国は普通列車だと1時間以上を要する。山を迂回して遠回りする在来線の山陽本線に対して、山陽新幹線はトンネルで直線的にぶち抜いた線路を時速200キロ以上で走行する。所要時間に何倍もの差が生まれるのも納得だ。
僕は今までの人生でこれほどまでに新幹線のありがたみを感じたことがない。多くの日本人にとって長距離移動といえば新幹線が常識になっているが、「速く移動できる」ことがどれだけ素晴らしいことかをもっと知るべきだ。徳山を出発して30分後の7時12分、ひかりレールスター590号は広島県・広島駅に到着した。

広島駅

新山口を50分遅れで出発したのに、広島には1時間も早く着いてしまった。恐るべき新幹線パワー。さて、ここからようやく元の行程に復帰できるのだが、あまりにも早く着きすぎている。時刻表を調べてみると、ここから五日市駅まで戻れば岩国から乗る予定だった電車に間に合うことが判明。せっかくだからなるべく在来線で移動したいと思い、自分から電車を迎えに行くことにした。

第13列車 7:23発 普通 岩国行き

227系

広島はこの旅で初めての人口100万人を超える大都市である。土日にも関わらず混雑する列車に揺られること20分弱、五日市駅に到着。

第14列車 7:51発 普通 広島行き

227系

10分ほど待ち、ついに乗り遅れた電車の先回りに成功!!
既に満員の電車に大勢の人が流れ込み、車内は大混雑。スーツケースを足元に引きずる僕はさぞ迷惑な存在だっただろう。一時はどうなることかと焦ったが、ひとまずなんとかなった。旅にトラブルは付き物というが本当に心臓に悪いのでやめてほしい。寝坊したのは自業自得だけど。

8時8分、本日2回目の広島到着。
お好み焼きを食べる暇もなく3分で次の列車に乗り継ぐ。

第15列車 8:11発 普通 糸崎行き

227系

今日はひたすら東に進む。列車は広島を発車し、野球に詳しくない僕でも知っているカープの本拠地マツダスタジアムの側を走っていく。海田市を過ぎると通称「セノハチ」と呼ばれる瀬野〜八本松間の急勾配区間を駆け上がり、広島大学がある東広島市の西条に到着。地名は「東」なのに駅名は「西」という矛盾。

沼田川(ぬたがわ)。初見だと絶対読めない

車窓の右側に沼田川が流れる。山陽本線ではこのように川に沿って走る風景が多い印象。

三原駅

三原駅に到着。最近知ったが、三原城の本丸跡地は新幹線の敷地内に飲み込まれてしまったらしい。海田市で分かれ、軍港として有名な呉を通ってきた呉線とここで合流。次が終点の糸崎駅だ。

「糸崎ダッシュ」と呼ばれる光景

糸崎駅ではわずか1分の乗り換え時間。反対のホームにこの先へ向かう列車が待機しており、ドアが開いた瞬間に乗客が一斉に次の電車へ駆け込んで座席の確保を狙う。先陣を切ってダッシュする猛者に続いて心なしか全員少し早足になり、「絶対に座る」という強い意志が充満して少し空気がピリピリしている。僕も急いで座席を取ろうとしたが、ほんの少し出遅れてしまい座れなかった。比較的大きな街まで乗客が減ることはない上に、移動時間がけっこう長くて立ちっぱなしはしんどい。だからこそみんな躍起になって座りたがるのである。

第16列車 9:32発 普通 相生行き

尾道付近

糸崎を出ると列車は尾道市に入り、瀬戸内海すれすれに近づいて走る。すぐそこに海が広がり、無数の島々が水平線で重なり合う美しい車窓だ。愛媛県と本州を繋ぐしまなみ海道もここを起点にしている。

福山駅

10時ちょうど、列車は福山駅に到着。新幹線の真下に在来線の駅があり、薄暗く柱が連続する様子は要塞のような重厚感がある。福山城が駅のすぐ隣にあり、電車からも至近距離で眺めることができた。
ここで乗客の入れ替わりがあり、ようやく着席。まもなく広島県を抜けて岡山県に入る。

里庄(さとしょう)駅

岡山県に入って二つ目の駅、里庄。この里庄町は「きらり」「燃えよ」などで知られる人気アーティスト・藤井風の出身地である。僕もよく聴いている。藤井風のおかげで知名度が爆上がりしたことは間違いなく、里庄町のホームページには「藤井風さん情報」なるページまで出来ている。

また奥を通過している貨物列車のコンテナの「福山通運」は、その名の通り先ほど通った福山市に本社を置く会社。福山通運のコンテナやトラックは日本中を走っているので見覚えのある人も多いはず。

倉敷駅

歴史景観地区が人気の観光地、倉敷に到着。ホームの下部分が蔵のようなデザインで、駅に着いた時から気分を盛り上げてくれる。多くの人が乗り降りし、満員状態で発車。ここまで来れば岡山市はすぐそこだ。

なんとなく車窓を眺めていると、ちょくちょく撮り鉄がいることに気付いた。それも一人二人ではなく、それぞれの場所に十人前後がスタンバイしている。「これは何かあるぞ」と鉄オタの勘が囁いた。近頃何かイベント的なものがあったっけ?と頭の中を探っていると……その時まさに脳内に衝撃が走った。

「今日は国鉄色やくもの運行開始初日だ!!!!」

特急やくも(通常色)

「やくも」とは、岡山と鳥取・島根を結ぶ特急列車のこと。使われている車両は381系という国鉄時代に製造された非常に古いもので、ここが最後の活躍の場となることから近年注目を集めていた。そこで観光キャンペーンの一環として381系の1編成を国鉄時代のクリーム色と赤色に復刻塗装することが決まり、全国の鉄道ファンがそのデビュー日を心待ちにしていた。それが2022年3月19日、僕がたまたま岡山を通りかかる日だったのだ。全然狙ってなかったので超ビックリした。

時刻表を調べてみると、ちょうど僕が岡山駅に着いて数分後に「やくも9号」が岡山を発車することがわかった。続いてツイッターで「やくも9号」と検索すると、まさにその列車に「国鉄色」が充当されることが判明。さらに奇跡は重なり、今乗っている電車は岡山駅で10分間停車するという。つまり一度ホームに降りて「国鉄色やくも」をじっくり観察し、再び同じ列車に乗り込んで旅を続けられるということだ。俄然ハイテンションになり、今朝の乗り遅れ騒動のことなどもう完全に忘れていた。

岡山駅に到着し、ホームに降りると……いた!!!!!

こ、これだ…!!!
381系国鉄色

塗り直されたばかりの車体はホームの景色をそのまま反射するほどの光沢を持って輝いている。かつて日本中で走っていたこの色の電車がこんなに綺麗に蘇ったという事実が鉄道ファンにはたまらなく熱いのである。それも「日本縦断中」にたまたまタイミングが合い、運行初日の晴れ姿を駅でじっくりと眺められた。これを奇跡と呼ばずして何と呼ぼうか。

発車するやくも9号

数分後、やくも9号は大勢の人に見送られながら岡山駅を出発した。
自分が乗ってきた列車の発車まではまだ5分以上ある。余裕を持って再乗車し、なんともいえない幸福感に浸っていた。日本縦断ほどのスケールになると、このような記念すべきタイミングに立ち会えることも多々あるのだろう。そして11時12分、糸崎から乗ってきた列車は岡山駅を時間通りに出発した。

山陽本線

岡山〜姫路の普通列車はいつも混んでいる。それと同時に山と川の車窓が美しい区間でもある。万富から和気にかけては吉井川、兵庫県に入って上郡を過ぎると千種川に沿って走る。そして広島県の糸崎から3時間弱、岡山を貫通して終点の相生に到着。


第17列車 12:21発 普通 姫路行き

223系

ホームで列をなして待っていた人々が乗り込み、車内は満員になった。周りの人たちが関西弁を喋っているのを聞くと地元に戻ってきた感がある。

近くにいた中学生ぐらいの女子2人はこれから姫路に映画を見に行くらしく、「あたし歳とったから涙もろいねん」「昔は全然泣かんかったけど」などと喋っている。いや君らまだそんな年齢ちゃうやろ…


姫路駅

12時40分、姫路に到着。

ついに近畿圏に入ってきた。そしてここからはJR西日本の看板列車「新快速」に乗って駅を飛ばしながらガンガン進んでいく。

姫路駅といえば駅そばが美味しいことで有名だが、ちょうど昼時で混んでいたのと乗り換え時間が15分ほどしかなかったので今回はパス。まだ一度も食べたことがないのでいつか食べてみたい。

第18列車 12:57発 新快速 米原・長浜行き

225系

新快速は18きっぷで旅をする人にとって救世主とも呼ぶべき存在の列車だ。運行距離が長い上に最高時速130キロで大量の駅をすっ飛ばすので、特急とほぼ変わらない所要時間で関西エリアを移動することができる。今回乗車した新快速も姫路から米原まで、実に198キロもの長距離を走ってくれる。快適なクロスシートに座り、駅構内のお店で買った手作りおにぎりを食べながら姫路を発車。

ツナマヨと肉味噌。具がたっぷりで美味しい

列車は加古川、西明石、明石と停車。
気付くと右手に明石海峡大橋が見えてきた。姫路を出てから25分ほど経っているが、体感15分ぐらいだった。あまりにも高速で走っているので、橋が見えてからわずか1分ほどで橋の下をくぐり抜けてしまった。

明石海峡大橋

西明石から線路は4本になり、列車は遠慮するそぶりもなく海沿いを疾走する。須磨付近で海から離れ、まもなく神戸だ。「神戸駅」は三ノ宮に隠れて影の薄い存在ではあるが、門司から辿ってきた山陽本線の起点であり、そして東京駅から伸びる東海道本線の終点でもある。いよいよ大幹線、東海道本線に突入した。

三ノ宮駅

神戸の中心駅・三ノ宮。実は今回枕崎から18きっぷの旅をスタートするため、3日前にこの神戸から宮崎行きの夜行フェリーに乗ってきたのだった。ずいぶん久しぶりに訪れた気がする。

2日目のスタンプは新山口駅

線路は4本あるので、先行する普通列車を横からバンバン抜かしていく。とても爽快な走りっぷりだ。尼崎を過ぎたところで神崎川を渡って大阪府に突入。

特徴的な大屋根が見えてきたら、関西の中心地・大阪に到着。13時58分、新山口出発からおよそ8時間。乗客がごそっと降り、また大量の人が乗ってくる。

大阪駅

新快速はまだまだ止まらない。淀川を渡り、新大阪では日本一の主要鉄道路線と言っても過言ではない東海道新幹線と交差。あれに乗ればたったの2時間半で東京に行ける。今ならそれがいかに凄いことかよくわかる。

山崎駅はホームの真上に府境があることで有名。僕の地元、京都府に入った。

山崎駅

実家まで車で10分で帰れる…とか考えるが、今は日本縦断の真っ最中。見慣れた住宅街と向日町の操車場、桂川イオンの横を通り過ぎ、14時半、京都に到着。

京都駅

京都の次の山科駅を過ぎるともう滋賀県に入る。ここで一日の疲れが溜まっていた僕は少々昼寝をした。起きると野洲を発車したところで、寝不足のせいもあって頭が痛かったので頭痛薬を飲んだ。時刻は15時。

ここで読者の皆さんに衝撃的なお知らせがある。

今日の行程の半分が終わった。

もう一度言おう。

ここでようやく半分。


朝5時(正確には5時50分)から10時間近く電車に乗り続けているが、今日はさらにあと10時間電車に乗ることになっている。あまりに過酷。一体どこまで行けるのか?僕の体はもつのか…?


米原駅

15時23分、米原駅に到着。この先はJR西日本からJR東海に管轄が変わる。

第19列車 15:30発 普通 大垣行き

313系

ここからはしばらくJR東海のオレンジ色の電車に乗ることになる。米原〜大垣も岡山〜姫路と同様に本数の少なさからよく混んでいる区間で、今回もやはり座れなかった。
滋賀と岐阜の県境近くには天下分け目の戦で知られる関ヶ原があり、ここは勾配がきついため鉄道の難所でもある。冬場にはたびたび東海道新幹線が雪で遅延するが、その原因となっているのも大体このあたりである。日本海から上手いこと吹き抜けてくる湿った空気が伊吹山にぶつかり、内陸部にも関わらず大雪を降らせるらしい。ちなみにその雪を活かしたスキー場・グランスノー奥伊吹は近畿最大級のスノーレジャー施設として人気を集めている。僕は昔スキーしようと親に連れられて車でこの辺まで来たが、あまりに吹雪が強すぎて辿り着けずそのまま京都に帰ったことがある。とにかくめっちゃ降るのである。

伊吹山(2023年1月撮影)

列車は大垣駅に到着。
ドアが開くやいなや多くの乗客が跨線橋に向かって猛ダッシュで駆け出した。この先の岐阜、一宮、名古屋方面に向かう列車の座席を確保するためだ。これは「大垣ダッシュ」と呼ばれる一種の名物で、もともとは東京〜大垣で運行されていた夜行快速「ムーンライトながら」で大垣に到着した乗客が関西方面への列車に集団で乗り換える様子を揶揄したもの。僕もせっかくなのでダッシュしておいた。

名物「大垣ダッシュ」

結果から言うと全然ダッシュしなくても余裕で座席を確保できた。ここから中京圏に入っていく。

第20列車 16:11発 新快速 豊橋行き

313系

列車は揖斐川と長良川を渡って岐阜駅に到着。岐阜駅を発車後に木曽川を渡って愛知県に入り、名鉄と並走しながら名古屋を目指す。

岐阜駅

だいぶ日が傾いてきたが、2日目の行程はまだまだ終わらない。

一宮市
名鉄と並走

線路のすぐ側まで高層ビルやマンションが立ち並んでいる。東海道新幹線が真横を追い越していき、到着アナウンスもかなり長々と続く。まもなく東海地方最大の駅、名古屋に到着だ。時刻は16時44分、新山口出発から10時間51分が経過している。

名古屋駅

山陽本線と東海道本線の列車の接続が良すぎるせいで今日はまともな食事が取れていない。きしめん食べてえ……
とホーム上の麺屋を眺めている間に列車は出発。腹減った。

岡崎付近
電車には色んな人たちが乗っている

名古屋を出て東に向かうにつれ、空は夕焼け模様になっていった。雲や田畑、建物がだんだんと黄色に染まり、伸びる影は青色が濃くなっていく。車内を見渡すと親子連れやおしゃれな若者、居眠りしている人など様々な人がいる。みんな夕方で疲れ気味だが、きっと僕が一番疲れている。

豊橋駅

豊川を渡り、17時40分、オレンジ色に照らされた豊橋駅に到着。

第21列車 17:44発 普通 浜松行き

313系

帰宅ラッシュが始まり混雑した列車は豊橋駅を発車。

次に乗り換えがある浜松駅では30分ほどの余裕を持たせてある。その目的はもちろん食事だ。あわよくば浜松ギョーザを食べたい!!
今日はご当地グルメ的なものをほとんど食べられなかった。せめて一日一つぐらいはその地域の味を楽しんでおきたいものだ。そこで目をつけたのが浜松ギョーザである。駅ビルにもいくつか店があるようだし、1パック持ち帰りぐらいなら30分でどうにかなるはずだ。口の中によだれを溜めながら浜松の到着を待った。

空はだんだんと薄暗くなり、静岡県に入って浜松に着く頃には真っ暗になっていた。

浜松駅

18時18分、浜松駅に到着。
急いで改札を出てギョーザ屋を探す。そして見つけた!!しかしその店は……

だ、大行列…!!!!
少なくとも10人以上は並んでいて、どう考えても次の列車には間に合わない。以前浜松駅に来た時は地下のスーパーで温かいギョーザが買えたことを思い出し、そっちにも向かってみる。すると……

ギョーザ置いてない!!!!!
今日はもう売り切れたのか、販売終了したのか、店頭には一つもギョーザがなかった。再び1階に戻ってさっきの店を見るとやはり大行列。くそっ、ここでも何も食べられないのかと諦めかけたその時…ついに見つけたのだ。人が並んでないギョーザを売っている店を!!その店の名は………

『一 風 堂』

完全に博多やないか!!!!
しかしあちこち歩き回っていたせいで残り時間をだいぶ削ってしまった。浜松なのに博多ギョーザ…せっかく浜松に来たのに…でも何か食べなければ胃がもたない……そうして散々悩んだ末、



一風堂のギョーザをテイクアウトした。
まあ浜松でギョーザを食べれば何でも浜松ギョーザということになるだろう。そういうものだろう。

口に入れた瞬間、舌と胃が歓喜した。ずっと待ち侘びていた温かい食べ物、ジューシーで味も濃く、食べ応え満点である。博多だろうが浜松だろうが関係ない。非常に美味でした。ありがとう一風堂。これでまだまだ頑張れる。

第22列車 18:51発 普通 静岡行き

211系

引き続き東を目指す。青春18きっぷ界隈で静岡はよくロングシート地獄と罵られるが、僕はそうは思わない。211系のロングシートは普通に座り心地が良いし脚も伸ばせる。空いていればかなり広々として開放的だ。そして実際途中から空き始め、19時半にはガラガラになった。これだけ空いていれば快適そのもの。
真っ暗な静岡県を進むこと1時間、20時2分に静岡駅に到着した。

211系の車内


第23列車 20:04発 普通 熱海行き

313系 元セントラルライナー車両

静岡駅でホームの反対側に停まっていたのは「当たり列車」だった。
この車両はもともと名古屋近郊の有料座席指定列車に使用されていたもので、この旅を行なっている2022年3月に静岡エリアに転属してきたばかりだった。今では一般の普通列車なので、有料だった座席に無料で座れるお得な車両という訳だ。岡山駅に続いてまたもラッキーを引き当てた。

少し豪華な内装

始めは混んでいて座れなかったが、清水で降りる人が多かったので無事着席。正直座席のクオリティは普通のクロスシートと変わらないが、窓の日除けがカーテンだったり、ドア付近にパーテーションが設置されていたり、どことなく優雅な雰囲気を感じられる。
完全に真っ暗なので何も見えないが、そろそろ富士山の麓を通過した頃だ。沼津、三島を過ぎ、長い長いトンネルを抜けるといよいよ首都圏の入口、温泉地の熱海に着く。熱海からはJR東日本の区間だ。

熱海駅 JR東日本式の駅名標

21時23分、熱海に到着。ここから乗る列車が2日目最後の列車になる。
その行き先は……

ん?
んん???
んんんんん?????

宇 都 宮。

というわけで2日目の目的地は栃木県・宇都宮になります。
ここから宇都宮まではまだ214kmもある。宇都宮の到着予定時刻は日付が変わって0時59分、新山口からの所要時間は19時間56分(実際には1本乗り遅れたので19時間6分) 、移動距離はなんと1158km。もう数字が大きすぎてよくわからないが、おそらくこれが普通列車だけで1日で移動できる日本最長の距離と思われる。

第24列車 21:26発 普通(上野東京ライン) 宇都宮行き

2日目の最終列車は熱海駅を出発。この時間に静岡県から北関東まで行くのはどうかしてるが、電車が「行ける」というのでそれに従う。乗っている人も意外と多く、この時間に需要があるというよりそれだけ沢山人が住んでいるということだろう。

熱海〜小田原は昼間なら太平洋を眺められる絶景区間だが、こんな時間だとただ巨大な闇が広がっているだけである。美しさどころか逆に恐怖すら感じる。
湯河原、小田原と神奈川県の街に停まっていく。こんな時間でも乗客がどんどん増えていくのが関東のすごいところだ。横浜あたりで全ての座席が埋まり、立ち客まで出てきた。川崎駅を発車して多摩川を渡ると、ついに東京都に入る。

多摩川
鉄道開業の地・新橋。2022年は鉄道開業150周年だった。

時計の針は既に23時を周っているが、東京の街はむしろこれから輝こうとしているかのようだ。電車の窓から見上げられないほど高いビルが何十棟と立ち並び、その全てがミラーボールのような光を放っている。何本もの列車とすれ違い、そのどれもが大勢の乗客を運んでいる。
アナウンスが流れた。「次は東京、東京です。」

東京駅

23時7分。日本最南端の枕崎駅から1793km。日本の中心、東京駅に到着した。この東京駅から新幹線に乗れば、九州にも北海道にも日帰りで行けてしまう。そんな便利な時代にわざわざ普通列車を乗り継いでここまでやって来た。思わず立ち上がって自分の目で「東京」の駅名標を眺めた。ここも数ある通過点の一つに過ぎないが、それに収まらない大きな気持ちが湧き出る。列車は数分の停車の後にドアを閉めて東京駅を発車。東海道本線はここで終わり、これから東北本線を進んでいく。


車内を見渡すと、本当に色んな人たちが乗っている。花束を抱えて友達と談笑する女性、まだまだ元気な子どもたち、青い髪の人、眠っているスーツの男性、ロングコートを着たおしゃれなカップル、スマホで新聞を読むおじさん、斜め向かいにいる娘らしい女の子に(こっち来て座んなさい)と手招きしまくるお母さん、居眠りした友人によっかかられているのかと思ったら赤の他人だったらしく颯爽と一人で降りていくお姉さん、スマホを眺める若者たち……
普通列車はあらゆる人々の日常を閉じ込めたような空間だ。一日の始まりから終わりまで、人々の縁が一瞬結ばれては絡まり、そして解けていく、それを繰り返している。まさか僕が日本縦断中の旅人だとは誰も思わないだろう。僕だけがこの日常空間からずれた場所にいるようで、地球に潜入捜査している宇宙人のような、どこか不思議な気分になる。

埼玉県の久喜駅で日付をまたぎ、大量の乗客が降りていった。先ほどまでほとんど埋まっていた座席が、逆にほとんど空席になった。ここまでロングシートに座ってきたが、車両を移動すると向かい合わせのボックス席が空いていたのでそちらに移った。通路を挟んで反対側のボックス席にはおじさんが一人座っていた。

0時31分、夜食に板チョコを食べていると小山駅に到着。すると後ろの車両からいきなり賑やかな4人グループがやってきて、反対側のおじさんに「おう!」と挨拶し一緒に座って談笑を始めた。なんだ知り合いなのか…と眺めていたが、そのメンツがやけに濃かった。声がバカデカいお兄さん、前時代のギャルみたいなお姉さん、茶髪のおばちゃん、小太りっぽい声のおじさん、そして最初に座っていたおじさん。そのすぐ横に日本縦断中の僕が一人。車内はガラガラなのに、この一帯だけ異常な個性が凝縮されていた。

彼らは「いっぺいさん」というミュージシャンらしき人の話で盛り上がっており、どこどこでライブがあった、美味い割烹料理屋を教えてくれたなど、いっぺいさん聖人エピソードが語られている。とにかく良い人らしい。それにしても前時代ギャル風のお姉さん、大笑いするたびに自分の膝を「バチン!!バチン!!」とフルスイングで叩きまくるので痛くないか心配になる。最初に座っていたおじさんも豪快に声を出して笑いまくる。ガラガラの車内なのにめちゃくちゃ肩身が狭い。


深夜0時59分、19時間にも及ぶ行程の最後は彼らの笑い声と共に賑やかに締めくくられた。今日の目的地、栃木県・宇都宮駅に到着。

宇都宮駅

駅を出る頃には深夜1時を過ぎていた。今朝、というか昨日の朝は山口県にいたことが夢のようだ。めちゃくちゃ疲れた。
宇都宮駅から少し歩いたところにあるカプセルホテル、パークプラザ宇都宮に宿泊。ようやく長い長い2日目が終了した。


新山口から宇都宮までの移動距離は1158km、所要時間19時間6分、乗り継いだ列車は13本。ちなみにこの乗り継ぎは現在も可能らしいので、普通列車の限界に挑みたい人はぜひ一度体験してみてほしい。

それでは2日目の記事はここで終わりになります。最後まで読んでくださりありがとうございました。3日目もお楽しみに。


↓3日目の旅行記はこちら


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