『君たちはどう生きるか』ジブリ好きの我が子が冒頭10分で離脱した理由
宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』。
アメリカでは、9月6日からMaxでストリーミングが始まりました。待ちに待ったストリーミングです。
この映画は、アメリカでもやっぱり人気で、ハヤオ・ミヤザキの名声をさらに不動のものにした感があります。
昨年(2023年)12月に全米で公開となったこの作品。公開初の週末に、北米で週末興行収入第1位をかっさらいました。ゴールデングローブ賞アニメ映画賞、アカデミー賞長編アニメ映画賞をはじめ、多くの賞を獲得したことは周知のとおりです。
さて、かくいうわたしもジブリファンの一人です。どの作品から入ったのかは、記憶が定かではありません。ナウシカから魔女の宅急便あたりの初期の作品に対する愛が濃いですが、それ以降の作品も全部観ています。
そんなわたしは、いまは我が子にジブリ映画を見せています。ほとんどの時間を英語で過ごす子どもたちに、日本語の種を植えつける格好の教材なのです。子どもたちが、ジブリ映画から日本語を学んでいる……かどうかはわかりませんが、少なくとも、喜んで日本語に触れる機会になっているのは確かです。
わたし自身の心はやる気持ちと、子どもたちにも見せたいという思惑をごちゃまぜの一塊にして、この週末に、我が家で『君たちはどう生きるか』の鑑賞会をしました。夕飯を済ませて、テレビの前のソファに並んで座ります。
夫(アメリカ人)は見ないでそうです。アニメ映画は子ども向けと決めてかかっているところがあります。ジブリ映画のメッセージの深さを理解させたい気持ちはありますが、まあいいです。ご自由になさって。
部屋を暗くして、始まり始まり。
映画館と同じように、冒頭の画像が無音で流れ始めます。異世界へ誘われる予感に、胸が高鳴ります。
画面が切り替わり、ぱっと目に飛び込んできたのは、空襲シーン。炎の熱で、視界がゆらめいています。
「どうして燃えてるの」
娘が聞きます。戦争で、街が攻撃されているのだと伝えました。わかったのかわかっていないのか、娘はふんと頷きました。
場所は変わり、少年・眞人の疎開先へ。日本の古い家屋を見て、子どもたちは去年訪れた祖父母の古い家を思い出したようです。でも、ふすまに描かれている獅子の絵に、息子がちょっとひるみました。
「この家、こわい」
家の中では、眞人が父親から持たされた大きなカバンの周りに、小柄でしわくちゃのおばあちゃんたちが群がっています。動物が獲物に群がっているかのように描かれたそのシーンは、確かにちょっと異様な印象を受けます。娘がわたしに体を寄せて、小さな声で言いました。
「この人たち、こわい」
眞人が縁側を歩いていくときに、一羽のサギが、軒下を眞人の頭をかすめるように飛んでいきます。予告編の映像にも出てくる一幕です。眞人に近い目線で描かれたサギが、間近に迫って、翼のしなる音だけを残して、びゅんと飛び去って行く。一瞬のできごとに、見る者をドキンとさせるシーンです。
ここで息子が、ひゃっと短い声をあげて、毛布を頭からかぶりました。
「もう見ない!」
このサギのシーンが決定打となり、我が家の鑑賞会はここで終了しました。冒頭からわずか10分です。
「この映画はホラー映画じゃないよ?」
わたしは何度も諭しました。でも、特に息子は、すでに心をかき乱されてしまっていて、聞く耳を持ちません。
「君たちはどう生きるか」という大きな問いには遠く及ばず。観せるのがはやすぎのたか、うちの子が怖がりなのか。
仕方ないので、日を改めてわたし一人で観ることにします。いや、今夜にも。