頼んだ料理に違和感があったとき、あなたならどうしますか
週末のお昼に、韓国料理を食べに行った。
用事を済ませた後で、時間は2時前。普段は、休みの日でも12時を大きく超えない時間にお昼を食べるのが習慣だ。そんな我が家にとっては、めちゃくちゃ遅いランチである。
Googleマップで検索して、その場所から7分の距離にある韓国料理屋さんに行くことにした。その地域はコリアン系の人口が多い地域なので、本場のうまい韓国料理が食べられるに違いないと踏んだのだ。
ビジネスビルの一角の、小さな店だった。窓ガラスは、中が見えないようになっていて、外からは店内の様子がわからない。レストランらしき形跡は、ドアの上に店名が掲げてあるだけで、看板とかメニューとかいらっしゃいませ的なものが一つもなかった。
営業してるのか?と疑問が浮かぶ。でも、店の前の駐車場はまあまあ車で埋まっている。
とにかく入ってみた。
こじんまりとした店内には、テーブルが10くらい並んでいた。ほぼ満席だった。ランチどきには遅いこの時間で、メイン通りから離れたこの立地で満席とは、やるな。
しかも、店員も客もほとんどコリアン系らしい。お互いに韓国語で話して大丈夫だろうかと探り合う様子もなく、自然に韓国語だけで会話している。
コリアンの切り盛りする韓国料理屋にコリアンの客が押し寄せる。これはいいサインである。
席についてメニューを開くと、見開き1ページしかない。前菜を除くと、スープが5種類、炒めものが5種類程度。得意料理を絞って勝負に出ているのが伺える。
これもいいサインだ。キャパシティを超えたメニューを展開して、冷凍ものをチンして出すような姑息な手は使わないらしい。
わたしたちが頼んだ料理は、この3品。
いずれも石焼き鍋に入って熱々の状態で出てきた。プルコギと豆腐は、縁に当たっているごはんやら炒め物やらがまだジュウ…と音を立てている。
空腹にこれはたまらない。期待できそうだ。
わたしは自分の頼んだチゲを手前に引き寄せて、どれどれ、とスープを一口すくって口に運んだ。「熱っ」と反射的にスプーンを口から離すのと同じタイミングで、「味うすっ」と心の中で叫んだ。
それは、驚くほど味が薄かった。
塩が足りないなんてレベルではない。調理担当の人が、調味料を一切合切入れ忘れたに違いない。
これは一体どういうことだ。こんな人気があるっぽい店なのに?これが得意料理の一つのはずなのに?なんでこうなった?
空腹からの思いがけない味薄パンチ。期待を裏切られた反動をくらって、わたしは怒りすら湧いてきた。
でも、それよりなんとかしよう。このままじゃ箸が進まない。
とりあえず、テーブルに備え付けてあった塩とコチュジャンを足してみた。でもまだ全然物足りない。というか、味付けのプロセスを本格的に一から始めないとどうにもならないくらい素材のみの味なのだ。
これ、なんなん?
夫にも一口スープを飲んでもらった。
「これ、ただの出し汁だね」
牛肉がごろごろ入っていて、見た目には美味しそうなのだ。これが「出し汁です」といって出てきたら、まあまあ贅沢な一品かもしれない。でも、「ランチのスープ定食です」で、これはないわ。
店員さんを呼んで文句を言おうかとも思った。でも、クレームをつけるのってエネルギーを使う。しかも積極的な方向ではなくて、消極的な方向に向かうエネルギーだ。なんだか空気が淀みそうで、気が進まなかった。
それからしばらく、夫と娘が頼んだものを分けてもらって食べた。プルコギも豆腐の炒め物も、ちゃんとおいしかった。2人分を3人で食べても余るくらい、量は十分だったので、スープにはそれ以降手をつけなかった。
最後に、お会計をするとき、店員さんがテーブルに来た。わたしは、やっぱり一言いわずにはおれなくなった。
「このスープ、味が薄すぎて食べられなかったんですけど、こういうスープなんですか?」
すると店員さんが、さっと表情を変えて、わたしの目を見て説明を始めた。
「これは出汁のままなので、お客さんに自分で味付けしてもらうスープなんです。ご存じなかったですか。失礼しました。最初にちゃんとご説明するべきでした」
人の好さそうなその店員さんは丁寧に謝ってくれた。あ、そうだったんだ。韓国料理には、出汁をそのまま客に出して、テーブルで好きなように味付けして食べさせるようなスープがあるんだ。知らんかった。
というか、わたしがもっと早く聞けばよかったんだな。クレームではなくて、これはどういうことだって、ただ疑問を投げかければよかったんだ。消極的なエネルギーなんて一切使わずに。
というわけで、そのほとんど口をつけなかった牛肉だしスープを持ち帰ってきた。明日あたり、味付けしなおして夕飯に出すつもりである。
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