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【日向坂文庫#10】『アンと青春』坂木司(表紙 齊藤京子)

日向坂文庫の読書も、10冊目まで来た。1期生が表紙のものは、ほぼ読み終わっている。今回は、1期生の齊藤京子さんが表紙の『アンと青春』(坂木司著)について書く。

赤毛のアンを思い出させる可愛らしい題名、ふわふわしていそうな主人公、美味しそうな和菓子。

ほっこり系のお話かなと読み始めたが、ミステリーの要素があったり、主人公が実は芯の強い女性だったり、ほっこり以外にも何層にも魅力のある、(洋菓子だけれど)ミルフィーユのようなお話だなと思った。

杏子の成長

デパートの和菓子店で働く杏子は、時に悩みながらも、和菓子やお客さんのことを考え、同僚から多くを吸収していく。

杏子、通称アンちゃんは、自己肯定感が低めで、どこかふわふわした印象だけれど、読み進めていくうちに、本当は強い人だと知った。

アンちゃんの誠実さや公平な視点を見習いたいと思った。

謎解きの要素、杏子の成長、丁寧な和菓子の描写のどれも素敵で、楽しく読める。

「とりあえず安心」という感覚

作中、アンちゃんが、学生のときは勉強、その後は仕事に打ち込んでいればとりあえず安心できるから頑張るけれど、本当にやりたいことや将来なりたい自分に向き合うことから逃げているだけなのかもしれないと葛藤する場面がある。

わかるなあと思った。仕事の繁忙期、朝早くから夜遅くまで働いて体力的にはきつくても、どこか安心している自分に気づくことがある。

自分は仕事を頑張っている。仕事が忙しくて時間がないから、他のことをする余裕はなくて当然だ。仕事のことだけ考えれば良い。

このように、ぼんやりした将来の不安などには向き合わず、仕事のことだけ考えることが正当化される気がして、どこか安心するのだ。

この「とりあえず安心」という感覚に甘えていて良いのかな、と思うときもあるが、アンちゃんにも同じような悩みを抱える人たちにも自分にも、「仕事を頑張ること自体は絶対に間違っていないから、自信を持って良いんだよ」と伝えたい。

アンちゃんが和菓子を届けることで、私たちが仕事をすることで、誰かのためになっている。「とりあえず安心」だからすることも、結果的に誰かのためになっているなら、意味があることだ。

何かから逃げているとしても、とりあえず目の前のことを頑張ることは悪いことではない。そこから開ける道もあるはずだ。

本書はシリーズ2作目

日向坂文庫に入っているのが本書だったことから、こちらを最初に読んだが、本書はシリーズ2作目である。

1作目の『和菓子のアン』や最新作の『アンと愛情』も読んでみたい。

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