【日向坂文庫#8】『一年四組の窓から』あさのあつこ(表紙 佐々木美玲)
文庫にしては文字も大きめだし、短めで、中学生が主人公。中学生が読むのにおすすめの本という感じかな、と軽い気持ちで手に取ったが、まっすぐに伝わってくる中学生たちのみずみずしさに虜になった。
日向坂文庫を通じて出会った本の中でも、とても好きな作品だ。
空き教室での出会い
中学1年生の杏里は、転校先の学校で空き教室を見つける。杏里がその教室の窓から外を見ていると、同学年の一真が現れた。一真は、杏里の絵を描きたいと瞬時に思う。
杏里は一真の絵のモデルになり、一真のおさななじみである美穂、久邦も含めた同じ中学の同期生4人で多くの時間を過ごすこととなる。
恋愛、友人関係、家族のこと、将来について。悩みは尽きないけれど、杏里は仲間とともに、少しずつ強くなっていく。
中学生にも、かつて中学生だった大人にも届きますように
大人になった今、中学生時代を思い返してみると、青春だったな、きらきらしていたな、と感じる。何をしていたのかと言われれば勉強と部活動くらいで特別なことはないけれど、努力は報われると素直に信じて、目の前のことに一生懸命向き合っていたと思う。
今思えば「良い時代」だった中学時代も、当時は悩みが少なくなかった。クラスの友人関係や部活動での人間関係、塾での成績の順位、部活動と受験勉強の両立。努力をすれば必ず結果がついてくると思えた時代だからこそ、上手くいかないことはすべて自分の努力不足に起因するのだと考えて苦しくなることもあった。
杏里と仲間たちが目の前のことに真剣に向き合っている様子は、今中学生の皆さんにも、かつて中学生だった大人たちにも、心にくるものがきっとあると思う。
私のような大人が中学生の頃を思い返して温かい気持ちになるだけでなく、今中学生の皆さんの悩みに直球で届くであろう言葉もある。
人はね、幾つになっても変われるものなんだよ。
友だちって思っていることを言い合えるから友だちでしょ。嫌なことは嫌だって言えるから友だちでしょ。『嫌だ』も言えないようなのって、おかしいよね
自分で道を選んだのなら泣き言は言うな。失敗しても挫折しても、誰かのせいにはできんのだ
一人で耐えること、みんなで分かち合うこと。自分だけで挑むこと、みんなと力を合わせること。そういうものがこの世にはあるのだ
多くの人にこの作品が届きますように。