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~君の名前で僕を呼んで 5th Anniversary~朗読劇 「想像超え」尽くしのピアノ裏話 第一楽章 シャツ脱ぎますか?
「ジョージさん、2023年の1月に僕が音楽監督の朗読劇の劇伴参加しませんか?」
「あ、劇大好きですし、そのタイミングならバースデーライブの直後なのでスケジュール空いてます。是非。」
「ありがとうございます。」
「ちなみに僕、クラシックほぼやってないので譜面ほぼ読めないですけど大丈夫ですよね?」
「ジョージさんとは何度もやってるので大丈夫だと思います。」
「あ、なら安心です。ではまた色々決まり次第ご連絡下さいな。」
あ、申し遅れました。私、旅するピアニスト・永田ジョージです。ここ数年あまりに旅をしていないので、旅や海外をテーマにした作品に飢えています。
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朗読劇へのお誘いは、オークラウロという幻の楽器のユニットでレコーディングやライブをご一緒している土屋雄作さんからのお誘いだったので、深く考えずに二つ返事で受けました。
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日を追うごとに、少しずつ詳細が明らかになっていきます。「君の名前で僕を呼んで」という人気映画の5周年記念イベントで、とてもスペシャルな劇であること。
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「頭の中の消しゴム」の朗読劇で10年以上のロングランヒットを飛ばしている脚本・演出家の岡本貴也さんの作品であること。バイオリンとピアノとギターの3人だけであること。
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後日、朗読劇への正式参加が決定したので、作品も観ました。映像も音楽も美しいし、DUNEに出ててかっこいいなーと思ってたティモシー・シャラメも妖艶な魅力を放っているけど、セリフが少ないので映画の要所要所で伝えたいことを理解できたような、理解しきれなかったような。この時、まだ僕は作品の真の魅力に気付いていません。
そして土屋さんからパラパラと送られてくる譜面。
当初、予想していたのはこういうのです。
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弾き手の経験と想像力に任せられる
ジャズを29年やっていると、コードさえ書いてあれば大体雰囲気で色々な曲が弾けてしまうので、そんなのを期待していました。実際、今まで一緒にやってきた曲はこれくらいにちょっと全音符とか二分音符が控えめに載ってるものでした。
僕が馬鹿でした。
想像を超える、そのイチ。
実際に届いたものは、全曲ほぼ全ての小節に音符が書き込まれていてですね。
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クラシックピアニストなら一瞬で弾けるものでも、クラシック離れて34年経ってると、まず読み解くのに物凄く時間がかかるのです。
極めつけはこちらの曲、エリック・サティの「官僚的なソナチネ」、これに至ってはもう想像超え三段跳びといっても過言ではない。
コードが書かれててない?
え、クラシック?
クラシックですよね?
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そしてテンポも結構早い。クラシックのピアニストからすると小型犬散歩するくらい容易いものだけど、僕からすると6歳児にドーベルマンを散歩させるくらい危うい。ウキウキお役所へ出勤して満足そうに頷く?そんな余裕もなく、家を出るのはいいけど果たして帰ってこられるのか…
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更に、バッハのカプリッチョ『最愛の兄の旅立ちに寄せて』変ロ長調 BWV.992の譜面も入っており、「映画の中では主人公が3回違う感じで弾いています。できればそれに寄せて下さい。」との指示もあり。
なるほど…とりあえず上のシャツ脱げばいいですね?
お客様絶対にひきますよ、ピアノだけに。
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「このシーンのピアノ、シャツ脱ぎますか?」
「脱がなくていいです」
現実逃避でそんな会話を想像しつつ、日夜時間を見つけては送られてきた譜面と向き合い、参考音源を聴き、少しずつそこに寄せていく地道な作業を続けるのでした。
想像を超える 〜第二楽章〜 に続く…かも。