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なあ、やめとけって

「なあ、やめとけって。」

毛先から途中まで灰色に染まった髪が耳を隠し、こちらの声を聞いているのかどうか分からない。

私が勝手に彼の部屋に入ってきてからそろそろ10分くらいになるだろうか。シャツに書かれた”Despair”の文字だけがこちらを向いている。意味は何だっただろうか。

「なあ、もう一度考え直せよ。」

そう言い終わる前から、この言葉には意味がないように感じられた。しかし、それでも私は言わねばならない。

「聞いてんのか。俺の気持ちも分かるだろ。」

虚しい。言うたびに虚しくなる。

人生でこれほどまでに誰かに無視されたことはあっただろうか。いや、それよりも、よりにもよって彼に無視されるなんて。

こんなことならいっそのこと、殴りかかられでもしたほうがよっぽど気持ちが楽だ。

とその時、一匹のGがそばにある本棚の下から彼の前へと走り込んできた。

「ひゃっ。」

彼は黄色い声を出し、一歩後ろへ退いた。

それから彼はゆっくりと体勢を元に戻し、再び静止した。Gはもうどこかに行ってしまった。

久しぶりに聞いた彼の声は、恐怖と驚きに震えた一瞬の叫びでしかなかった。しかし、そこには確かに、彼の命が宿っていた。

身を捩り、後ろへ飛んだ彼の体は生命力で瞬いた。

あの頃の彼と同じ彼を、私は感じた。

私は確信した。大丈夫だ。

今日は駄目かもしれない。しかし、少しずつ、時間をかければ、彼は振り向いてくれる。

今度は何か、おいしいものでも持ってこよう。

部屋を後にし、空を見上げた。ちょうど夕日が沈んだところだった。

振り返ると、彼の部屋には明かりが灯っていた。


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