見出し画像

沖縄野菜クラブ 1 開墾

私が小さい頃、田畑は身近なものだった。小学校の通学路は青々と稲が育つ田んぼの中を縫っており、よく道草をくったものだった。その頃の私が注目していたのは、もっぱらそこにいる生き物だった。

ヤゴ。カブトエビ。オタマジャクシ。私は動くものを追うのに必死だった。空き缶を見つけては彼らを中に放り込み、意味もなく集めていた。

残酷という言葉はまだ知らなかった。

中学校の通学路は灰色のアスファルトとコンクリートに囲まれていた。田畑を感じることは、それ以来ほとんどなくなった。

先日、そんな私に、久しぶりにあの土の匂いを身近に感じる機会が訪れた。友人が立ち上げた「沖縄野菜クラブ」へのお誘いがあったのだ。

私は「知っているようで知らないもの」にこそ、学びがあると思っている。私にとって農業はその典型だった。二つ返事で入会した。

野菜クラブの活動初日は、借りた土地を耕すところから始まった。

足元に広がる地面には野生の草花が生え放題。久しぶりに見たてんとう虫が、悠然と私の目の前を飛んでいく。ここは耕作地である前に、彼らの棲家なのだ。

「私達が日常と呼ぶものは、善良な悪事の上に成り立つ。」by 私。

残酷という言葉を忘れた私達は、耕運機を打ち鳴らし、くわを地面に突き立てた。

荒野がみるみるうちに畑へと変わっていく。

私の原風景が、今、目の前で作られていく。

いいなと思ったら応援しよう!

Takumiのessay
最後までお読みいただき、ありがとうございました!