原田マハ『板上に咲く』担当編集者の想い
−この本がそばにあれば、私は大丈夫だ−
この度、原田マハさん3年ぶりの長編アート小説『板上に咲く』を刊行いたします。
『たゆたえども沈まず』ではゴッホと画商林忠正の絆を、『リボルバー』ではゴッホとゴーギャンの友情を描いてきた原田さんが今回テーマに据えたのは、ゴッホに憧れゴッホを追い越した、日本人アーティストの棟方志功。
青森の寒村出身で、お金もなく、目もよく見えず、満足な絵の教育も受けられなかった棟方が「世界のムナカタ」になったのはなぜなのか? 彼のそばには、妻・チヤがいつも寄り添っていました。
読み出したら止まりません。
〈チヤ様 私は貴方に惚れ申し候。ご同意なくばあきらめ候。志功〉
新聞に公開ラブレターを掲載した棟方の朴訥さに、クスリと笑いが溢れます。
「きっと、どうにかなる。いいや、きっとどうにかしてみせる」
「絵バカ」の棟方が創作に打ち込めるよう、「嫁いだのになぜか出戻り」となって子連れで青森に帰るチヤの逞しさに惚れ惚れします。
原田さんの小説は、まるで目の前で登場人物が動いているかのように感じられるのが常ですが、棟方夫妻の悪戦苦闘ぶりは読んでいる体がよじれるほど。それでも、チヤの信じる力と献身の美しさに心躍ります。
どんな人にもきっとある、苦しいとき。
この本がそばにあれば、私は大丈夫だと思えるようになりました。
まだ私の中にしかないこの小さい熱が、多くの人と分かち合えるものになりますように。
お読みいただけましたら嬉しいです。
幻冬舎 第三編集局 壷井