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風のカフェ・ブラン シロクマ文芸部

風車かざぐるまにさそわれて、凛はその店に迷いこんだ。
庭を埋めつくすスノードロップは、小人専用のランプのよう。
いらっしゃい、とふるふる揺れている。
飛び石を歩くと、こぼれんばかりの雪やなぎにどうしてもふれてしまう。
ちいさな花びらはよわよわしく、すぐに地面や凛のつま先に落ちた。

店内も白かった。
本棚やテーブル、カウンター。すべておなじ白木でできている。
飾り気のないクリップボードのメニューから、凛はサンドイッチとドリンクをえらぶ。

***

ラッシーの味に衝撃を受け、人見知りを放り投げてレシピを聞いた。
ママは驚いたふうもなく、カルピスとお砂糖、レモンとミルクだよ、と種明かししてくれる。
「飲んだことないくらい、おいしいです」
「隠し味は隠さなきゃね」
ふふ、と笑ってママは詩集をはらりとめくる。

ゆっくりしてって、と言われなくても店がそう語りかけてくる。
凛は生成きなり色のソファに包まれ、金子みすゞとしばし語らう。

学生時代の友人が銀色夏生に心酔していたこと。
母が与えてくれた世界名作全集のおかげで、夏休みは退屈しなかったこと。
高校の司書さんと「夏への扉」きっかけで仲良くなったこと。
今の今までわすれていたことが、風のようによみがえってきた。

***

新しい彼氏は匂いに敏感だ。
凛をハグする前から、鼻のあたりがフキゲンめいている。
「なんかちがうんだけど」
「そう?」
鈴音ママがヘビースモーカーなことは、伏せておこうかな。
髪にうつってしまう秘密の風は、あのカフェの唯一の弱点だ。

(おわり)

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