黄金の女神|掌編小説 シロクマ文芸部
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紅葉から声がすると言ったら、彼は笑った。
「ほう。なんて?」
「やっと色づいたのに、もうお別れだなあ」
言ってから、私はパッと口に手をあてる。
「ん?どした」
「言霊的にはよくなかったかも…」
そう、まさに今の私たちのよう。長い間、友人だったのが、しだいに色を変えていった。今日はちょっと遠出して、紅葉狩り。まぎれもなくラブラブデート。いや、ラブ要素は主観です。
「ああ。よくないねえ」
後ろで手を組み、並木を歩く。なんだかおじいちゃんっぽくて、笑ってしまう。
「そこは大丈夫って言うとこ!」
私の反応を見越していたのか、一歩先でほほえんでいる。
メタセコイアの巨木からこぼれる黄金の光。ずっと覚えていたい瞬間だ。
彼の生業は、画家。風景画や人物画なら感想も言えそうだが、私にはよくわからない。抽象画というやつ。受けたイメージをつたえようとしても「スカーフにできそう」などと、出てくるのは的はずれなことばかり。
今日だって、彼の知り合いの展覧会におじゃましても、ちんぷんかんぷん。布と紙がぐしゃぐしゃに絡まり、宙に浮いている。インスタレーションという空間芸術らしい。
よく見れば、それは新聞紙でできていて、つなげて読む詩作品だった。
「これ、バラバラに読んでも味があるね!」
よく気づいたね、と言わんばかりにうなずく保護者。
「キッチンカーのぞく?」
アート鑑賞より食い気だとバレている。
「紅葉と同じくらいかそれ以上に、インスピレーションもらってますよ」
大口を開けてハンバーガーにかぶりついたタイミング。フライドオニオンの食感とジューシー和牛、きのこソースのうまみも吹っ飛んだ。
メタセコイアさん、聞きました?
『生きている植物化石』さんにこんな話をするのも恐縮なんですけども。
どうやら、芸術の女神と私は同列のようですよ?…まじか。
(おわり)
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