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毒舌お人好しガール シロクマ文芸部

桜色のスカートを新調した日。かろやかな足どりで商店街をぶらつく。
わたしは、よほど人のよさそうなカオをしているらしい。
丸顔が安心感を抱かせるのか、週イチペースで人に道をきかれる。
スマホがあればどこへでもスイスイ行けそうなものだが、みんながみんな機械の言うとおりにできないのだ。

***

声をかけられるといっても、ナンパだったことはいちどもない。
あ…いや、一回だけある。この男だ。
「って、前にも会いましたよね?」
「あ、あ~…」
気まずいのか、そいつは目線をうろうろさせる。

同じ人間を二度も釣ろうとするなんて、マヌケすぎてもはや拍手喝采。
「どこ行きたいんですか」
へ?と男は気の抜けきった炭酸みたいな声を出す。
「道ききたいいんでしょ」
「そういうわけではなくて…展望台。そう、夜景見に行きませんか。あ、夜桜でもいいです」

思考回路がナゾすぎて、わたしは遠慮なく男の顔をあらためる。
相手は居心地悪そうにカバンを持ち直した。
いきなり夜デート?に誘うなんて、下心のカタマリだ、こいつ。
だれがホイホイついて行くかっつの。

***

わたしはアーケードを見上げ、さっそうと歩く。
こちらが必死に速歩しているのに、ヤツはのんびりついてくる。
ストライドのちがいを見せつけてきやがる。

「えっと、脚細いよね」
「は?」
舌打ちしそうになった。
お世辞にも華奢きゃしゃとはいいがたき、わがままボディのわたくし。
イヤミか?体のわりに、とでも言いたいのか?

***

やわらかな風にふと足を止め、桜の花びらのゆくえを目で追う。
屋根があるのに、どこから迷いこんできたのだろう。
「…好きな人いるとか?」
おお、存在を忘れておったわい。
「いないですけど、なにか?」

「時間あったらつきあってほしいなと」
「用事あります。六時半からアニメをリアルタイム視聴っす」
どうだ、オタク女はごめんだろう。
てっきりフェイドアウトすると思ったのに、どんな番組かとヤツは粘りをみせる。

「一緒に見るとか…」
「ナイ」
力強く斬り、わたしはスプリングコートのボタンを留める。
まさか二度もめぐりあえて運命…とか思っているんだろうか、キモ。

***

「キモキモ言いすぎなんだけど、ともちゃん」
「だってキモかったもん」
どうやら最寄り駅が同じだったらしく、彼はしょっちゅうわたしを見かけていたという。
あるときは3歳児迷子を駅員に受け渡し、またあるときは話の長い迷子おばあちゃんを交番に届け。
「うわ、またつかまってるなあ。あーいいコだ。話してえって」

いちどめのコンタクトでけんもほろろに断られ、どん底に落ちたらしい。
が、あきらめきれず、朝夕会えないかと駅周辺を張っていたという。
「ストーカーの中のストーカーじゃん」
「あざっす」
「キモ」

それが今のオットです。
ベタすぎてぞっとするオチで、お恥ずかしい。

(おわり)

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藤家 秋
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