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三元豚のぜいたくカツカレーをどうぞ|連作小説⑧

1380字

 これはやみつきになる。
 まろやかでコクのある味わい。スパイスがほんのりきいて、次のスプーンを誘う。
 厚切りカツは脂肪分が少なくヘルシー、最後のひとくちまでやわらか。三元豚ロースに生パン粉をふんわりまぶし、揚げたてを提供。
 単独でもおいしいから、カレーと一緒に食べると二倍楽しめる。ビーフカレーなので、ダブルでお肉を味わえるぜいたくさ。

「というのがキッチンカーの目玉となります。『三元豚のぜいたくカツカレー』いかがでしょう?」
 いまだかつて、ここまでヒリヒリした会議に出たことはない。
 にらみ合う両軍に、花歩かほは笑顔を向けてみた。北軍は兄の七生ななお、泣く子も黙る現場主義コンサルタント。腕を組み、正面モニターを凝視している。南軍は、ガラに似合わぬ能面の一青いっせい
 まわりがなんとかしないと、どちらも口をひらく気配すらない。

 百貨店の東側には桜並木がある。お花見シーズン以外の人通りを増やそうと周辺店舗がタッグを組み、週末ナイトマーケットをひらくことになった。
 出張ヒナタボコが実現するかどうか、だいじな局面だ。
「西条さんは? 納得してるのか?」
 はじかれたように一青が顔を上げた。
「当たり前だし」
 話がみえていない花歩に、ありさが助け舟を出す。 
 西条氏とはヒナタボコの前オーナー夫妻のこと。きまって奥のテーブル席でにこにこと食事を楽しむ、グレーヘアのふたりだ。今の今まで単なる常連さんだと思い込んでいた。

「最近始めたクロッフルをメニューに加えては?」 と七生。
 クロワッサン生地をワッフルメーカーで焼き上げる新作スイーツ。メープルシロップやバニラアイスと合わせると、バターの風味がきわだち、サクうま最高。思い出して花歩はよだれが出そうになった。
 甘い香りにお客さんが引き寄せられるはず。目の付けどころがちがう。

「偵察に来たわけ?」
「事前リサーチ」
 そういえば、ありさが七生をお店に案内したと聞いていた。
 トゲがあるにはあるが兄弟の会話が成り立っていることに、ひそかに感動する。雪解けへの第一歩になるかも。

 結論としては、ヒナタボコの参戦が正式決定。週末はお店の書き入れどきのため、隔週土曜限定で出店することに。
「中二病なんだよ、あいつ」
 解散後、時間が空いたので駅前でお茶をした。一青の前で号泣して以来どうしたもんかと、お店から足が遠のいていた。ぎくしゃくもせず普通に話せるし、前よりなんだか落ち着く。
 
 教職についていた彼らの父親は過労で心を病み、命を絶ってしまった。仕事で全国を飛びまわっていた長男・七生は、死に目にあえなかったそうだ。
 実家にほど近い五葉ごよう百貨店で働くようになってからも、母親にめったに会いにくることはない。
「かまわれるのはイヤっぽくてさ。オヤジの葬式や一周忌にはさすがに来たけど、食事は外で済ませたり。なんかむかつく」
 母親の気持ちを思いやる一青に、花歩はほおをゆるめた。親心としては息子にごちそうをつくってあげたり、家をきれいにととのえて迎えたりしたくなるものだ。

 花歩の祖母も人の子だった。
 ソリの合わない嫁が娘・花歩のアパートに越してからというもの、嬉々として息子の世話を焼いている。結婚したからといって、べつに奪われるわけではないのだが、気持ちがついてこなかったのだろう。
 わかっているのに、どこかかみ合わない。人間って困ったもんだ。

(つづく)

本日1/22はカレーの日!
晩ごはんはキマリ☆
カツ丼もいいね( ´∀`)b

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藤家 秋
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