着ぐるみとロボット 最終話 連載恋愛小説
(979字)しおりが声をかけてくれる。
「忍、おちついて。体操部の人に特訓してもらって、危険はないってお墨付きもらったから」
特訓?キケン…?ますますパニックになってくる。
「黙っててごめん。心配しすぎて、どうにかなるんじゃないかと思って」
しおりの推測は正しすぎたわけだが、そんなことはどうでもいい。
長屋本人はのほほんとしているのに、忍の緊張はどんどん高まり、吐きそうになってきた。口を覆って生つばを飲み込んでいると、ふわっと頭があったかくなる。モップみたいな手が、忍の頭をポンポンなでた。
「宮城」
「え…はい」
「忍とつきあいたいんだけど、いい?」
「はい!おもいっきり大事にする条件で、お願いします」
想いを切り替えるには、時間がかかるだろう。
ふたりの関係をだれにも言わないと、忍は長屋に伝えていた。
「せっかくだから、誘導しとく?もう一回」
ハッコくんは手を差し伸べる。
「背中で引っぱっていくタイプのリーダーですよね」
長屋の後輩・三枝は、真剣な表情で動画を撮っている。
「将さんみたいな、動けるハッコくん目指します」
ハッコくん先生が小中学校で出前授業をするプロジェクトも、立ち上がった。
「もう1体購入する予算も下りそうで。来年度から、ハッコくんふたり体制です」
ふたりめはすでに決まっていて、別の角度で撮影しているとか。
キラキラした目で語られると、こちらまで心が浮き立つ。
人気が出てから退く潔さ。信念を貫くことで、まわりを感化していく情熱。緊張感のない、まあるい紫の背中に、忍は心底惚れ直したのだった。
想定以上に正解が多く、ハッコくんは大盤振る舞いで宙を舞った。
ケガひとつなくて、ほんとうによかった。
汗で濡れた髪がセクシーだとかヨコシマなことを考えているのは、忍くらいだろう。
「打ち上げ来る?その店、カルピスサワーあるし」
無言で見つめあい、忍は胸がいっぱいになる。貴重なメモリー容量をそんなことに割いていいのかと思いながらも、口もとがゆるむ。
「いつ思い出したの?私が誘導係したって」
松葉杖時代の忍がふらついて受け止めたとき、らしい。
さっきの宣言は学園祭ノリで高揚しただけかと、半信半疑だった。
「あ。じゃあ、将さんの彼女枠で参加します」
「調子いいな」
「だめ?」
「いいけど」
おお、将がデレたー、とまわりはどっと笑った。
彼のデレはこんなもんじゃない、と忍はひとりほくそ笑んだ。
(おわり)
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました(T_T)