鴇亜

文学の話をしたり短歌を詠んだりします。

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最近の記事

阿部智里『烏は主を選ばない』

 前の巻の女たちの若宮をめぐる闘いの裏で行われていた、それよりも熾烈な男たちの権力闘争の物語。  ぼんくらな次男でも、うつけの若宮でもないんだろうなあと最初から予想して読み始めたのだけれど、ここまでとは予想外だった。最初から折に触れて言及されていた雪哉の出自にも、全ての真実にも驚いた。  気付いていたけど、このシリーズはめちゃくちゃ面白いな……。  3巻も読むのが楽しみです。

    • 上遠野浩平『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター Part1』

       20年ぶりの再読!ところどころしか覚えていなかったから、楽しんで読めた。  様々な人の視点から一つの話が描かれるのだけれど、同時に色んな視点から描くのではなくて、視点ごとにストーリーが進んでいくのが面白い。  スプーキーEは前読んだ時も本当に嫌いだったけど、今回は綺の苦悩をより感じられて、もっとスプーキーEが嫌いになった。  あと、和子が綺に言う言葉が胸にきた。そうだよな、嫌われずに生きるなんて無理だよな……とか。  Part2の内容を何も覚えていないので、とても楽しみです

      • 青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』

         遂に推理小説の謎が解けるようになってきてしまった!  ここは、探偵が職業として成り立つ日本。主人公は、そこで探偵事務所を営む「不可能」専門の御殿場倒理と「不可解」専門の片無氷雨。この二人の、連作短篇ミステリ。  どの謎も、複雑ではないのだけど、読んでいてとても面白かった。一つだけ、2/3くらい解けちゃったけど…….。あれは残念だった。私は謎が解けなくて、推理を読んでビックリするのが楽しいのに。  あと、中心となる登場人物4人の人間関係も気になる。2も読まなくては。  最後

        • 岡真理・小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいパレスチナのこと』

           これを読んで、愕然とした。  自分の無知さに。無学さに。鈍感さに。そして、それに気付いていなかったことに。  今パレスチナを中心とした中東で起きていること。それらは結局、一つのことに起因している。パレスチナの上にイスラエルが無理矢理作られたこと。そこまでは分かっていた。でも、シオニズムとは具体的にどんな思想を言うのか、報道されないガザで起きていること、イスラエルの人間がパレスチナの人々にしてきたこと、そしてその根元にある植民地主義……。植民地主義という言葉は、私たち日本がお

        阿部智里『烏は主を選ばない』

        • 上遠野浩平『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター Part1』

        • 青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』

        • 岡真理・小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいパレスチナのこと』

          池澤春菜『わたしは孤独な星のように』

           声優として名を馳せる池澤春菜は、実は大の読書家。その処女作品集。内容としてはSFです。  コメディタッチのコミカルなSFから、著者の趣味に走った(?)と思われるSF、そして本格的なSFまで、作風は幅広い。  個人的には、わたしはキノコと百合が好きなので、キノコ百合SFである「糸は赤い、糸は白い」も好きなのだけれど、SFとしては、地球温暖化が極限まで進んで陸地がひどく狭くなり、水棲の人類が生み出された、という設定の「祖母の揺籠」が一番好き。リアリティがあって、だけどどこかファ

          池澤春菜『わたしは孤独な星のように』

          ハン・ガン『ギリシャ語の時間』

           言葉を口に出すことの出来なくなった女の人と、徐々に目が見えなくなっていく男の人の物語。  この本を読んで、色に例えるなら白だなと思った。それからみずみずしいサボテンの色。私はものを色に例える癖がある。共感覚というらしいけど。  話を戻そう。主人公の二人は共に傷を抱えている。特に女性は、子どもから引き離されて生活している。女性は言葉が出ないことに苦しんでいる。でもそれを伝える手段も持たない。  男の人は、古代ギリシャ語を教える講師だ。女の人は、その生徒。前にも同じようなことが

          ハン・ガン『ギリシャ語の時間』

          有栖川有栖『日本扇の謎』

           ノベルスで読んだけれど、いつもの国名シリーズよりも分厚い。それだけでワクワクした。  記憶喪失になって家に戻ってきた青年が、再び失踪。そして、代わりに見つかったのは、家と深い縁のある女性の遺体! 果たして殺人犯は失踪した青年なのか? 読み終えると、タイトルの意味がよく分かります。  そして、最近の有栖川の国名シリーズの中では、一番面白かったです。満足。

          有栖川有栖『日本扇の謎』

          小川洋子『掌に眠る舞台』

           表紙からして、とても繊細で美しい。小川洋子にぴったり。  最近の小川洋子は、独特の小川洋子ワールドが広がる短編集が好きなのですが、この作品もそんな短編集でした。  色んな角度から描かれるのは、「舞台」。昔演劇をやっていた私には馴染みの場所です。だからこそ、それをこういう風に描けるんだな……と驚いてしまいます。  今回も、小川洋子ワールドにすっかり魅了されました。色に例えるなら白がお似合いの小川洋子ワールド、離れられそうにありません。

          小川洋子『掌に眠る舞台』

          半藤末利子『夏目家のそれから』

           夏目漱石の長女の筆子と弟子の松岡譲の娘にして、文筆家としても著名な故半藤一利の妻である筆者が、今まで書いたエッセイをまとめたもの。  又聞きした漱石の話、晩年の鏡子の話、良心的が結婚した経緯や晩年の筆子の話、自分自身の長岡疎開の話など、話題は多岐に富んでいる。でもどれも愛情に満ちていて、読むと心が洗われる気がする。  新潟に縁のある人間なので、のっぺと笹団子には反応してしまいました。食べたいなあ。

          半藤末利子『夏目家のそれから』

          京極夏彦『病葉草紙』

           京極夏彦が描く、一風変わった長屋もの。  感じとしては、巷説百物語に近い。起きた事件を、存在しない「虫」のせいにして表向きは収めてしまう。ふと、百鬼夜行シリーズの途切れている続きが読みたくなった。  長屋の藤介さんと周囲の人々との軽妙な会話もくすりとくる。とくに藤介が生まれたときには隠居していたという父親の藤左衛門との遣り取りが気が抜けていて面白い。少し軽めなのは、長屋ものだからなのだろうか。

          京極夏彦『病葉草紙』

          山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』

           この本を書いたのは、ジャポニカ学習帳の表紙の写真でお馴染みの昆虫写真家さん。様々な珍しい昆虫を撮影するために、世界各地に赴いています。  そして、珍しい昆虫がいるのは、大抵は自然豊かなところ。そして、古くからの食文化が残っているところも多いのです。  この本を読んで、「サゴヤシ」という食べ物を始めて知りました。コメの美味しさが、それまでその地方にあった食べ物に勝りつつあることも。あと、原産地というか、元々生えていたところが想像していた場所と全然違っていたりもしました。タガメ

          山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』

          時雨沢恵一『キノ旅ⅩⅠⅩ』

           久々に読んだキノの旅。  このバランスが良いな、と思う。  皮肉にもなり過ぎない、諷刺にもなり過ぎない、微妙なバランスで書かれている。  キノとエルメスも本当に良いコンビだな、と思う。時々エルメスの方がとても鋭くて、ハッとする。  あとがきは……オチは分かっていたけど笑いました。

          時雨沢恵一『キノ旅ⅩⅠⅩ』

          鶴岡真弓『ケルト 再生の思想--ハロウィンからの生命循環』

           ケルト文化については、以前から興味があった。  今までで一番ハマッたキャラクターが、アイルランドの出身だったのだ。  そのほかにも、好きな作家がアイルランドの出身だったり、Fate/stay nightの推しサーヴァントがクー・フーリンだったりと、アイルランドとケルトが気になる理由は年々増えていた。  そこで、図書館でこの本に出会ってしまったのだ。  借りるしかない。  私はそう思って、この本を借りた。  読んでみると、大変に興味深いことがいくつもあった。  まずは、ケル

          鶴岡真弓『ケルト 再生の思想--ハロウィンからの生命循環』

          北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

           北村薫の研究成果がみっちり詰まった、文学と落語のミステリー。  菅虎雄が書家だったと知ってビックリした。漱石の友人で独文学者としか知らなかったので……。  特に印象に残ったのは、「漱石と月」。「漱石がI LOVE YOUを『月が綺麗ですね』と訳したと言われるようになったのは何故か?」という私の長年の疑問の一つの可能性が書かれている。気になる人は是非とも!読んで欲しい! 「清張と手おくれ」は、ミステリー好きならではの作品だった。リアルタイムで読んでいないから気付かなかったけど

          北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

          小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』

           自分は本当にウクライナについて何も知らなかったんだな、と痛切に感じた。  描かれているウクライナの歴史は、とにかく大国に振り回されるもので、悲惨。読んでいるだけで胸が痛む。  あと、テレビを見ていると、どうしても大局的な……言い換えれば他人事的な視点でこの侵略戦争を捉えてしまうよな、と思った。でも、そこには人の生活があって、人の生命がある。それは忘れてはならないなと感じた。

          小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』

          飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』

           潔癖症で有名な泉鏡花。けれど、不思議な生態を見せるきのこに対しては、少し違っていた様子。きのこが出てくる小説や随筆が集められています。 「きのこの舞姫」が特に好きです。幼い頃天狗に拐われて、戻ってきてからも時々天狗のお里に帰るようになった杢若。彼が作るのは、蜘蛛の糸で編んだ、茸のお姫様のドレス。それらはやがて、人を狂わせるようになる。幻想的で、茸への愛があって、うっとりするようなお話でした。  茸の不思議な生態と泉鏡花の不思議な世界観は、とても相性が良いです。きのこ好きの方

          飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』