『正欲』を読んで多様性について考える

こんにちは！今回は少し前に話題になった『正欲』を読んで思ったことについて書いてきたいと思います。

①概要

この本は特殊性癖を持つ三人の登場人物の話が時系列順に書き表されています。最後にはこれらの話は一つに収束します。この三人の持つ特殊性癖は社会に生きる人たちには理解されず、誤解され、その結果事件となって三人は逮捕されてしまいます。この本でいかに多くの人が自分とは違うものを排除して考えているかがわかります。

②この世界の認識

　この本の冒頭部分にこの世界の認識として【誰もが「明日、死にたくない」と感じている】と書いてあります。しかしこの本を読み終えるとその認識に違和感を覚えます。この世界には自分の性癖が理解されず毎日生きることを苦しく思い、生きずらいと感じている人が一定数います。
　最近多様性という言葉が世の中に一般的に使われるようになり多くの人が少数派の人を理解した気になっています。
「多様性の時代だから、自分に正直に生きよう」
そのようにいうことが出来るのは本当の自分を明かしたところで社会から排除されない人だけです。結局は私も含め多くの人が自分の持たない特殊なものを持つ人のことをどこかでは排除して生きています。世の中には人間が想像できないことの方がはるかに多いはずなのにどうしてそのような人を排除するのでしょうか。人間は結局自分のことしか考えていません。結局人間はその人の周りの究極的に狭い世界のみしか見えずに生活しています。
　どうして自分がまともで普通で常識的であると思っている人たちはいつも自分とは違うと考える人の道を狭めるのでしょうか。これは自分が多数派であるというアイデンティティを保ちたいからでしょうか。それとも、今自分がいる多数派の世界が反対に少数派になることを恐れているからでしょうか。自分が生きやすい世の中を作るために他人を排除することで私たちは自分たちの生活を守っています。自分とは違う人が生きやすくなる世界とはつまり、明日の自分が生きやすくなるかもしてないということも理解せず他人を排除する人が多いということです。

③特殊性癖について

今回特殊性癖という言葉が主軸としてこの本は展開をしてきます。
特殊性癖を持つ人とは私たちが感じる性的興奮を異性との関係からではなくそれ以外から快感を得る人のことを指します。
特殊性癖にはどのようなものがあるのかいくつか例を挙げていきたいと思います。
▶嘔吐フェチ…マーライオンのように人が嘔吐する様子に興奮する
▶丸のみフェチ…対象が何物かに丸のみされる様子に興奮する
▶状態異常/形状変化フェチ…時間停止、石化、凍結などにより人体が変化する様子に興奮する
▶風船フェチ…風船そのものや風船を膨らましている人などに興奮する
▶マミイフィケーションフェチ…ミイラのように拘束する、されることを好む
▶水フェチ…水が流れたり滴る様子に興奮する

最後に

ここ数年で「多様性」という言葉が急速に広まって幸せの感じ方にもたくさんの考え方が現れ始めました。結婚の形態、性の意識などが特に大きく変化したと思います。「常識や価値観は変わった」そう思わせるような情報発信が多くされ、人々の意識も昔に比べれば明らかに増え、理解も深まりつつあります。しかし、この風潮はどこかきれいごとで当事者にとってはただの同情にしか聞こえず、多様性という言葉が広まったことで救われるのはマイノリティの中のマジョリティです。自分と違うと理解できるところまでがギリギリのラインです。想像できないほどのことにはしっかりとふたをして道を狭めるように仕向けます。
　このようなふたをされ、道を狭まれてきた人たちはこの生まれ持った場所で堂々と生きたいとは考えることが出来なくなり隠れて生きるようになります。このような人たちにとっては社会の人が自分たちを理解しようとしていることを気持ち悪く感じるかもしれません。ほっといてくれれば、かってに生きるからもうほっといてくれと。
　しかし、多様性という言葉が軽率に広まってしまったために中途半端に人をほっといてくれないのです。私はこの、理解が「中途半端である」ということが問題であると思います。それならいっそかまわないでそっとしておいた方がよいのではないかと思います。
　そもそも、マイノリティの人を「受け入れる」というように考えていること自体がそもそも自分にマジョリティのアイデンティティを持たせて上から目線で相手をみなしているので良くない風潮であると思います。
　「多様性」というマイノリティの人たちを受け入れた気になれる便利な言葉が中途半端に広がったマイノリティの人が生きづらい世界と私たちはどのように向き合うべきなのでしょうか。

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