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極東奪還闘争

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ウラジオストクへ農業進出した時に巻き起こった農地の争奪戦を小説としてリポートする。韓国が国ぐるみで巨大農場を建設したり、中国企業の暗躍。将来の食料不足に備え農地を獲得すべく各国が…
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ウクライナとインド、未来の食糧確保への挑戦

ウクライナとインド、未来の食糧確保への挑戦

私たちは、ビルの門を潜り抜け、厳格なセキュリティ検査を経験していた。商談のための詳細な資料リストとパスポートの複製はすでに何日も前に届けられていた。

訪れた先は、「ウクライナ投資イノベーション庁」という、ウクライナの政府機関の一環である。ここは2005年に立ち上げられた比較的新しい組織で、その目的はウクライナの経済に対する投資の呼び込みや技術的な革新の推進に関する政策を策定することだ。その活動内

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黄金の種、貧困と希望の交差するウクライナ農村

黄金の種、貧困と希望の交差するウクライナ農村

彼らがウクライナに足を踏み入れたのは2008年のことである。わずか一年間で、驚くべきことに六千ヘクタールもの農地を手に入れた。その広大な土地は、山手線の内側とほぼ同じ面積だ。そう聞けば、その広さの規模感が頭に浮かびやすいだろう。その土地で、彼らは小麦、大豆、ソバの実、そしてマスタードの栽培に乗り出したのだ。

潤沢な資本を持つ投資会社が、壮大な買収戦争を演じて農地を得たと思われがちだ。しかし、その

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ランドラッシュの放棄

ランドラッシュの放棄

それゆえに、ウクライナの豊かな農地は、「ランドラッシュ」と呼ばれる世界規模の農地争奪戦の一環として注目されることになった。放棄された農場が新たな競争の舞台と化す中、その後に目の当たりにしたものは、人々の勢いある奪い合いにより無情にも荒廃した自然の姿だった。

豊かだった土壌は草の一本さえ生えないほどになり、かつて生息していた野生生物の姿も見る影もない。人々の欲望と経済的な必要性によって、短期間に無

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大航海時代の到来。棄てられた農地が宝の山に

大航海時代の到来。棄てられた農地が宝の山に

ウクライナといえば、その肥沃な土地が特徴である。過去には、この地を求めて20以上もの異なる国々の企業が競い合った時期があった。それはまるで貴重な宝石を見つけるような競争で、各企業はウクライナの豊かな農地を手に入れることを目指した。

具体的には、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン、セルビア、イスラエル、インドといった、世界の大企業が名を連ねていた。特に目立っていたのは欧

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ジュシュア

ジュシュア

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我々が探訪するのは、地球の反対側、ウクライナという国。その地で急速に進行中の現象、「ランドラッシュ」。これは国境を越えての農地獲得の一大潮流であり、水環境の転換等と共に世界的な課題となっている。

ウクライナと言えば、その地理的位置からすれば、西側はポーランド、ハンガリー、ルーマニアなどと隣接している東ヨーロッパの国。一方、その東側は広大なロシアに面している。この国はソビエト連

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ランドラッシュ

ランドラッシュ

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それは、「穀物市場システム」への信任が揺らぎ始めていたからである。

具体的には、2007年から2008年の「世界的食糧危機」が発生した時期に、既に全球の穀物取引に異常が現れ、グローバルな供給チェーンは機能不全に陥り始めていたのである。

以前までの世界の穀物取引は、「穀物メジャー」と呼ばれる巨大な多国籍商社が主導していた。このビジネスモデルでは、商社は生産国から小麦、大豆、ト

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世界中で勃発するランドラッシュ

世界中で勃発するランドラッシュ

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私がウラジオストクの地を訪れたのは、リーマン・ショックが引き起こした世界金融の暗黒時代だった。この衝撃は投機マネーを一気に蒸発させ、穀物価格を高騰させる重要な要素を一時的に消去した。

過去には想像もつかないほどの高額にまで跳ね上がっていた穀物価格は、この時期には一息ついていた。それはまるで大海原に漂う船が、一時的に風のない静寂な水面に出たかのような静けさだった。

しかし、こ

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プロローグ 極東奪還闘争時代の幕開け

プロローグ 極東奪還闘争時代の幕開け

私にはロシア人の血が流れている。

祖父がロシア人で日本人の祖母と出会い、日本で子供を産んだ。

それが私の父だ。

私の父は日本人として生活をして、日本人の母と結婚したので、私の家にロシアの文化は一切ない。

しかし、ルーツはロシアにあるので、いつかはロシアの地に自分の足で立ってみたかった。

2009年からNHKで放送の始まった、明治維新を成功させて近代国家として歩み出し、日露戦争勝利に至るま

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