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【小説】ノン-プロテアーゼ

テレビで特集がやっている。

「ジャジャーン!世界のピンチ!食料がとうとう底を尽きる!?連続特集~!」

「今、我々の食卓には洋食やら和食、ファストフードなど、いろいろな食べ物があります。しかし、我々が食べられるものは限られています。30年前と比べ、人口は85億人と大幅に増加しているのに対して、食料自体は日々減少しています。」

「人間の活動と生活圏が広がるにつれ、食料の生産範囲は徐々に減っていっているのです。」

「世界の食糧を一枚のピザに例えれば、一人一人の食料が1/8枚だったのが1/16枚になってしまったと考えていいでしょう。」

「あれ?柳アナウンサーはピザ食べれるんですか!?……」

……

………

テレビが垂れ流しになる部屋で、私は貧乏ゆすりをしている。どうも落ち着かないのである。膝が上下に揺れるたび、私の心臓もドックンドックン揺れる。

この日までに色々用意してきた。ベッド、ぴったりなサイズの洋服、おもちゃ、オムツ。後は、病院からの知らせを待つだけ。

そう今日は妻の出産予定日なのだ。

ただ、不安は尽きない。45歳の初出産で、最近主流になってきた体外受精でできた子どもなのだ。子どもも心配だし、妻もだ。なのに、自分は何もできないことに焦っている。

もう一度、自分を落ち着かせようと今度は何か食べることにした。冷蔵庫を開くと、妻が食べる用の”うどん”と私が食べる用の”牛丼のもと”が分かれて置いてあった。

私は生まれてこの方、一度しかうどんを食べたことがない。別に嫌いなわけではないのだが、どうも「グルテンアレルギー」らしく、小麦に含まれるグルテンを一定以上食べてしまうと全身にナマコのように発疹ができ、焼けるように熱を出してしまう。なので、妻が食べるうどんは絶対に触らないようにしている。

逆に妻は牛肉が食べれない。動物の肉がダメなのだろうか。あまり詳しくは知らないが、ヴィーガンかアレルギーかのどっちかだろう。

このように、夫婦で食べるものが全く違うので、冷蔵庫の中は見えない国境線が引かれたように、左右で綺麗に分かれている。

いま、世界では誰しも一つは食に対して好き嫌いがあったり、アレルギーがあったり、思想の元、ある食材に触れるのを拒否するようになったらしい。

なんなら、この世界のどこかに、理由はわからないが、炭水化物やタンパク質など、どの食材にも共通に存在するようなものが一切食べれない者もいるらしい。

私には到底考えられない生活をしている人だっているんだ。と考えながら、牛丼を貪っていたら、自然と緊張が取れてきた(ように感じた)。

その時、一本の電話が鳴った。


恐る恐る受話器をとる。


ガチャッ

……

………

ツゥーーー

「よかった。無事…生まれた…」

出産から数日後、役所へ出産届を出すために諸々の書類を病院から受け取らなければならないらしく。私は病院へ向かった。

初めてのことだらけで、不安だったが、病院の人は親切にしてくれて、提出しなければいけない書類をあらかじめ紙封筒に入れて用意していてくれた。

かなり書類が多かったので、書類チェックリストとペンをもらい、テレビのある待合室で書類を確認することにした。

一つ一つチェックしていく中で、ある記録帳のアレルギーの欄のところに、チェックリストには載っていない厚手の紙切れがクリップどめされてあった。

その紙には「RS chromosome 7q7,8p1,11q1,2」と書いてあり、調べてみると、英語の部分は「Removal Surgery(除去手術)chromosome(染色体)」ということがわかった。

また、この紙切れがとめられていたところに目をやると、そこには「タンパク質」と書かれていた。

……

………

「いや~、この連続特集もいよいよ最終回となりました。」

「食料危機と言われているこの時代に、ここ数年で増加傾向にある多種多様なアレルギー。」

「ある人は食べれるものが、ある人は食べれない。こういった種々雑多なアレルギーの相互補完によって、一人当たりに必要な食料の種類と量が決まって行き、生産者もどれくらい生産すれば良いかわかってきたので、過度な生産や消費がなくなり、食料安定につながっていると…。面白い考えですね~。」




あとがき

読んでいただきありがとうございます。前回と比べて毛色はだいぶ違うとおもいます。今回は単純に物語として読んでいただけたらいいなと思っています。

さばの唐揚げ

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