【極超短編小説】「いただきます」
鍵を閉め忘れたかも、と思って玄関へ。
ちょうどドアノブがカチリとわずかな音をたてた。
覗き穴から窺うと彼女だった。
ドアを開けると一瞬驚き、レジ袋を突き出してきた。
中にはスポーツドリンクと胃薬。
「ありがとう」
「‥‥」
彼女の鼻がひくつく。
「昼飯食べるとこだったんだけど、一緒にどう?」
彼女はテーブルに頬杖をついて外を眺めている。その雰囲気はあまりにこの部屋に馴染んだ風で違和感がない。
彼女がこの部屋に入ったのは2回目のはず‥‥だよなぁ。
僕は昨日買っておいた硝子の灰皿を彼女の前において、食事の準備にとりかかった。
「いただきます」
正座して手を合わせた彼女の姿にドキッとした。できれば彼女が食べるその姿を、少し離れた場所で見ていたかった。
食事が終わり台所で食器を洗う。ふと振り返る。
彼女はジーンズで立て膝、頬杖をついてラッキーストライクを燻らせていた。