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腐女子ばんざい

日本の、若い女の子たちが夢中になるものを信頼している。若い女の子が「これ、カッコいいんですよ」と教えてくれたものは、今は「へー」としか思えなくても数年後、私も好きになってるかも…と思ったりする。バンドとかアニメとか2.5次元ものとか。
だいぶ前に「これ、いいですよ」と教えてもらってすぐに夢中になった当時防弾少年団と呼ばれていたグループは瞬く間に世界的に人気になったが、私は思っている、あのグループを最初に見つけたのは日本の女の子だ。セブチもしかり。

腐女子、と呼ばれる女の子たちがいる。Wikiによると『男性同士の同性愛を扱ったやおい、特にボーイズラブ(BL)などの創作物を好む女性を指す言葉』らしい。「婦女子」のもじりだそうで、なんか、遊び心があっておもしろい。
若い子が腐女子か、じゃあ私は腐婆だな。
だって竹宮恵子(現在は竹宮惠子)の『風と木の詩』の愛蔵版を後生大事にして押入れの奥にしまっているし、萩尾望都のドイツのギムナジウムの少年達の愛にドキドキしたし、今読んでも絶対胸がキューとなる。

竹宮惠子「風と木の詩」第6巻白泉社文庫
この少年の名はジルベール。ちなみにゲイカップルのご飯を楽しく描いた「昨日何食べた?」に登場する小悪魔的な男の子がジルベールと呼ばれているが、この少年の名前を模したのだろう。

本屋に行けばBL漫画コーナーは拡大の一途で、間違いなくおもしろいのだろう。しかし、あのコーナーに立つのを許されるのは「女子」と呼ばれる年齢層であり、「婆」ではない。
現物を購入する勇気もない。
それでアプリで読んでみた。おもしろい。膨大な数のBL漫画の中からいくつか、私が胸がキューとなる!と思ったものを挙げてみる。

百瀬 あん
『ナカまであいして』 海王社(2020年〜)


この漫画を一番最初に読んで、大正解だった。無料で20話読めるのもよい。躊躇しながら課金して、課金して、課金してしまった。
最初から交わりがあり、性格にそれぞれ難ある二人が交わるたびにお互いを大事に思い、徐々に素直に愛を口にしはじめるのがかわいらしい。絵もきれい。『ナカまであいして』というタイトルも体の関係のみならず心の深いところまでお互いが探り合い、親密になっていくストーリー展開に寄り添っていて、いい。BLマンガのよき洗礼を受けた気分。

山本小鉄子
『明日はどっちだ!』大洋図書
(2016年〜)


この作者さんは作者買いのファンが多いみたい。
わかります。
幼なじみの顕に恋してる星(きらら)は女の子よりキラキラした可愛いマイルドなヤンキー男の子。父親がゲイであることが理由で両親が離婚した顕はゲイ嫌いになる。それを知った星はなんとか気持ちを隠そうとするが…、
という幼なじみから恋に発展するストーリー。
好きになったのはオマエで男も女も関係ないって感じの主人公たちが潔くていい。でもやっぱり学校では隠すよね。
そういう状況で、明日のことはわからない!先のことなんてわからない!というタイトルが正直でいい。

ユノイチカ
『夜明けの唄』from RED COMICS
(2021年〜2024年)全9巻

従来のBLものを超えた大きなストーリーで、かなりの話題作のよう。無料で24話も読めるのがありがたい。
暗い海からやってくる化け物から民を守るために毎夜、海で闘う巫子のエルヴァ、暗い海で闘う度に指先からやがては身体中に墨痣が広がり若いうちに命を落とすことを定められている。そんなエルヴァの役に立ちたいと少年アルトは巫子の家に通い始める。やがてアルトがエルヴァに触れることで、少しずつ墨痣が消えていくことに気づく。アルトは本当は何者なのか?エルヴァはこの残酷な任務から解放される時がくるのか?
まず絵がきれい。しっかりした基礎技術のある方だと思われます。
BLものといっても、そういうシーンは控えめ。
ストーリーはファンタジー要素もありながら不思議な世界をリアルにしっかりと描いていて、今までBLものを読んだことのない層にもよく読まれているようで読者層の裾野を拡大した作品といえるのでは。作者はこれがデビュー作ということでやっぱり才能がこの世界に集まっていると確信した一作です。またこの作品を世に出したのが編集プロダクションの電子雑誌からで、多様な媒体から才能が出現するのだなーと改めて実感しました。萩尾望都のよう、といわれているそうですが最大級の賛辞だと思う。


山本小鉄子
『マッドシンデレラ』大洋図書(2011年〜2015年)
全5巻

これはもう作者さん買いしました!
幼なじみの財閥帝人グループの跡取りの朔一と中学から新聞配達をしてお金を稼いできたしっかり者の良太が婚約し、身も心もパートナーとして前へ進もうとするお話し。この作者さんの絵も好きだし、作中人物がみんな明るくて前向きなのがいい。
幼なじみから恋がはじまる、というのはBLもののみならず恋愛マンガの定番ストーリーといえるけど、
まっすぐ一直線な主人公たちがかわいくて笑えます!

マミタ
『40までにしたい10のこと』リブレ(2023年〜)

2024年BLアワード総合コミック部門1位受賞作です。40歳まであと3ヶ月の十条雀(39)は家では雀のぬいぐるみ「すず子」と会話する、着ぐるみ大好きファンシーなサラリーマン。40になるまでにしたい10のことを書きつらねているのを部下の田中慶司(29)に見られてしまう。慶司は衝撃の発言をする。「雀さん、ゲイでしょ?」自分もゲイだと告白され「あなたのこと余裕で抱けます」と抱きすくめられてしまう。
もう、ニヤニヤがとまらない。おそらく、雀さんが慶司くんに恋する過程で読者も一緒に恋に落ちていくのでしょう。
会社では上司の39歳の雀さんを、家では「おいで」と言って抱き寄せる余裕ある慶司くん。小さなことにも目配りのきく彼だから、雀さんのやさしさやかわいらしさに気づくのでしょう。会話もテンポよく、読んでいて楽しい。

ヨネダコウ
『囀る鳥は羽ばたかない』大洋図書
(2013年〜)

これは、ハマってます。毎日無料で読んでます。情報量多いし、じっくり味わい、反芻したいから。我慢できなくなったら課金します!
幼い頃から義父に性的虐待を受け続けてきた矢代は自己防衛ゆえかセックス依存症で身体を傷つけられることに快感を覚えるようになっている。高校の同級生影山はそんな矢代の側にいて彼を案じている。影山は影山で傷や皮膚のただれに妙に執着し、興奮する性癖を矢代に告白する。影山に対しいつしか愛情を抱くようになるが矢代は思いを仕舞いこむ。数年後、影山の実家の診療所がヤクザの地上げにあい、それを阻止するため矢代は…。
あぶないあぶない、ネタバレするところだった。
このへんは導入部で、百目鬼(どうめき)という矢代の配下で働く男が現れてから物語が本格的に動く。矢代の軽い会話の中の冷めた洞察力と達観したような、あらゆることを諦めたような眼差しが、たまらんです。
アニメ化もしたそうですが、私は実写版でも充分いけると思います。それほど、重厚なつくりです。


腐婆な私のむねがキューとなった作品をいくつか並べてみた。腐婆、とかいってるけど30代以降のBLマンガの読者は貴腐人と呼ばれているそうで、これもユーモアがあっておもしろい。
腐女子や貴腐人はいまや風前の灯となっている書店にとって大切なお客さんである。書店勤務歴30年超えの旦那によると、腐女子は数人で書店に訪れ、貴腐人は一人でそっと訪れるそうだ。奥ゆかしいな、貴腐人は。で、最近BLコーナーに立ち寄る小学生の姿が気になるらしく、いいのかなーと思うらしい。
低年齢化と、私のような婆も読むから高齢化と。
つまり、規模が拡大しているということ。
ただBL専門の出版社も新旧入り乱れて量産体制にあるのか、内容は乏しいがエロ度高めなものも多く、マンガとしては面白くないものも多い。こういう作品に対しては口コミで明確に優劣がつけられる。
女性マンガ家による主に女性が楽しむためのBLマンガが人気がではじめて10年以上たっているので読者の目もそれなりに厳しさがあると思う。男性の読者も増えてるもよう。

(上記の記事はBLの動向を知る上でとても勉強になりました!)
間口の広い業界だから、玉石混交だけどその中でも圧倒的な才能が生まれる可能性はあるだろう。
やっぱり、女の子達が面白がるものは面白かった。
それが結論です🌱

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