ヘラクレイトスの「万物流転」を神話で解釈しよう
この記事ではギリシャの哲学者であるヘラクレイオス( 紀元前540年頃 - 紀元前480年頃)の万物流転の概念のアイディアを神話を使用して解釈することを目的としています。
ヘラクレイトスとは
ヘラクレイトス(HeracleitusまたはHeraclitus)は、古代ギリシャの哲学者であり、紀元前6世紀に生きたとされています。彼はエフェソス出身で、しばしば「暗示の哲学者」または「流れの哲学者」と呼ばれています。ヘラクレイトスの考え方は、万物は絶えず変化し、流れているというものでした。彼の有名な言葉には、「すべては流れている」や「同じ川に二度と入ることはできない」などがあります。
万物流転
ヘラクレイトスの「万物流転(panta rhei)」のアイディアは、物事は絶えず変化して流れているという哲学的な概念を指します。以下は、このアイディアを詳しく解説したものです。
流転の基本思想: ヘラクレイトスは、世界が永遠の変化と流転の中にあると信じました。彼は、「同じ川に二度と入ることはできない」という有名な言葉で表現されるように、時間と空間を通じてすべてが絶えず変化していると考えました。
火の原則(アルケー): ヘラクレイトスは、万物の根源的な原則として「火」を提唱しました。彼によれば、火は変化そのものを象徴しており、物事が生まれ変わり、変化し続ける根本的な要素であると考えました。この火の原則は、物事の変化が連続的かつ不断であることを示しています。
対立と均衡: ヘラクレイトスは、相反する要素が絶え間なく対立しながらも一体となって存在するという考え方も提唱しました。彼の有名な言葉に「戦争はすべてのものの親であり、王でもあり」があり、対立や相反が世界の動力となっていると述べています。
知恵と個体: ヘラクレイトスは、知恵ある人々が変化を理解し、それに適応できる一方で、多くの人々は変化を理解できずに混乱すると考えました。彼は個体の視点から変化を見つめ、それに対応することが重要だと認識しました。
アぺイロン
「アペイロン」(Apeiron)は、古代ギリシャの哲学者アナクシマンダロス(Anaximander)によって提唱された概念で、無限・無限大・無限の原理などを指します。アナクシマンダロスは、アペイロンが全てのものの根源であると考えました。
以下は、アペイロンに関するいくつかの要点です:
無限の原理: アペイロンは、アナクシマンダロスが提案した宇宙の起源や根源的な原理としての概念です。アナクシマンダロスは、他の古代ギリシャの哲学者たちが物質や要素を根源として考えるのではなく、アペイロンを根源とし、このアペイロンからあらゆるものが生まれたと考えました。
無限性の特性: アペイロンは無限であるとされ、限界がなく、無限大の原理として位置づけられます。これは有限なものではなく、あらゆる有限なものの基盤となっているとされました。
全てのものの源泉: アナクシマンダロスは、アペイロンが全てのものの源であると考え、宇宙や自然の起源を説明するためにこの概念を使用しました。アペイロンは永遠であり、変化と流転する世界においても変わらずに存在していると考えられました
対立の一致
ヘラクレイトスの「対立の一致」(Unity of Opposites)とは、彼が提唱した哲学的なアイディアの一つで、異なる要素や対立するものが一体として存在するという概念を指します。このアイディアは、彼が万物の流転と変化に関する思想と密接に結びついています。
以下は、「対立の一致」についての詳細な説明です:
相反するものが一体となる: ヘラクレイトスは、世界が相反する要素や対立する力から成り立っていると考えました。例えば、対立する要素としては、熱と寒さ、昼と夜、生と死などがあります。彼はこれらの相反する要素が互いに作用しながら、一体となって現実を構成していると見ていました。
戦争と調和: ヘラクレイトスは、対立が絶え間なく存在する中で戦争と調和が同時に存在すると認識しました。彼によれば、「戦争はすべてのものの親であり、王でもあり」という言葉が、対立する力が物事を生み出し、バランスを保つ重要性を強調しています。対立がなければ変化がなく、変化がなければ生命そのものが成り立たないというのが彼の立場です。
均衡の状態: ヘラクレイトスは、相反する要素が一体となって均衡を保っている状態が、宇宙の本質であると考えました。これは対立するものが調和し、調和が変化と流転の中で維持される状態を指します。均衡の状態は、対立の一致における安定性を示しています。
「対立の一致」のアイディアは、哲学的な抽象概念であり、物事の多面性や複雑性を強調しています。この考え方は後の哲学者たちにも影響を与え、特にヘーゲルの弁証法で発展してきました。
万物流転を比喩する神話的な概念について
ヘラクレイトスの「万物流転」のアイディアは、神話における創造神による物理世界の生成と類似しており、おそらく彼の哲学的なアイディアは神話からの影響を受けた可能性があります。多くの学問的なアイディアは神話→形而上学→哲学→学問という順序で発展する傾向があり、それに従って、「万物流転」のアイディアを理解するためには神話のエピソードやアイディアに焦点を当てる必要があります。
こちらの章では「万物流転」のアイディアに酷似したアイディアを紹介していきます。
エクス・ニヒロ
ユダヤ教においても「エクス・ニヒロ」の概念が存在し、これは特にユダヤ教の聖典である旧約聖書の最初の章である「創世記」に関連しています。
ユダヤ教の「エクス・ニヒロ」の要素について以下に説明します:
創世記の記述: ユダヤ教の聖典である「創世記」の冒頭において、「神が天地を創造された」という記述があります。これは「エクス・ニヒロ」の概念を示唆しています。具体的には、「地は形なく、むなしい淵の上に、神の霊が遊んでいた」という文言(創世記1:2)が「何もない状態」を指しており、そこから神によって宇宙が創造されたとされています。
神の力による創造: ユダヤ教では、神が全能であり、その力によって宇宙が創造されたと考えられています。この創造のプロセスは「エクス・ニヒロ」の概念に沿っており、物質や要素がある前提から出発せず、神の意志によって存在が生まれたとされています。
形而上学的な考え方: ユダヤ教の「エクス・ニヒロ」の概念は、物質や時間が神によって造られたという形而上学的なアプローチを反映しています。このアプローチは、物事が神によって何もない状態から生まれたという信仰を強調しています。
ギンヌンガガプ
ギンヌンガガプ(Ginnungagap)は、北欧神話における創造の起源に関連する概念で、言わば「無(Nothingness)」や「空虚」のような存在を指します。ギンヌンガガプは、氷と火の要素が交わる神秘的な空間とされています。以下は、この概念に関する詳細です:
語源と意味: ギンヌンガガプという言葉は、古ノルド語で「無のがらくた」や「虚空」を意味します。ギンヌン(Ginnun)は「無」を、ガガプ(gagap)は「空間」や「がらくた」を指します。
起源と創造: 北欧神話において、ギンヌンガガプは宇宙の創造の原点とされています。最初にギンヌンガガプが存在し、その中に氷と火の要素が混ざり合い、混沌とした状態が生まれました。この混沌の中で、生命の創造が始まるとされています。
ユグドラシルとの関連: ギンヌンガガプはしばしばユグドラシルと結びつけられます。ユグドラシルは世界樹であり、その根元にあたる場所がギンヌンガガプであると考えられています。ユグドラシルは宇宙の中心軸であり、ギンヌンガガプはその起源を表す場所とされています。
ヨトゥン族との関わり: ギンヌンガガプは、ジョトゥン(巨人)や氷の神々など、神話の中で力強い存在を持つヨトゥン族とも関連があります。彼らがギンヌンガガプから生まれ、宇宙における重要な役割を果たすとされています。
ゾロアスター教
アフラマズダ(Ahura Mazda)とアーリマン(Ahriman)の闘争は、ゾロアスター教における宗教的な対立として知られています。ゾロアスター教は、アフラマズダを最高神とし、彼が創造者であり、全知全能であると信じる一方で、アーリマンは邪悪の存在で、混沌と破壊の原因とされています。彼らの闘争に関連するエピソードは、ゾロアスター教の聖典である「アヴェスター」や「ガーサー」に見られます。
アフラマズダの創造とアーリマンの謀略: 最初、アフラマズダは完全な善と光明の神で、宇宙を創り出しました。しかし、アーリマンはアフラマズダの創造に対抗し、悪意をもって反乱を企てました。アフラマズダはアーリマンの存在を認識し、彼に対抗するためにさまざまな手段を講じます。
アーリマンの反撃と混沌の創造: アーリマンはアフラマズダに対抗するために、アフラマズダが創り出した善と秩序に対抗して混沌と悪をもたらしました。アーリマンは死と疾病、嘘と憎しみ、さまざまな災厄をもたらし、宇宙に悪の要素を導入しました。
三つの矢と最終的な勝利: アフラマズダとアーリマンの対立は、しばしば「三つの矢」の対話に結実します。アフラマズダはアーリマンに対抗して三度矢を放ちます。最終的にはアフラマズダが勝利し、アーリマンは永遠に打ち倒されます。この戦いの結果、最後の審判の日が訪れ、アフラマズダの創り出した善と秩序が宇宙を支配するとされています。
マニ教
マニ教は、古代の宗教的な運動であり、光と闇の対立が中心的な要素となっています。この宗教は、マニと呼ばれる預言者によって創始され、マニ教徒は光明教徒(マニハイ)とも呼ばれました。以下は、マニ教における光と闇の対立に関する基本的な考え方です:
二元論の宇宙観: マニ教は、宇宙を光明(善)と闇(悪)の二元論的な対立として捉えています。この対立は絶えず存在し、物質世界や人間の魂もこの光と闇の対立に巻き込まれています。
光明の原理: マニ教における光明の原理は、「無限なる光(M'Nug)」または「生命の光(Hvarest)」と呼ばれます。これは神聖なる存在であり、善、純潔、知識の象徴です。光明の原理は宇宙の起源であり、精神的な解放への道を示しています。
闇の原理: 対照的に、闇の原理は「無限なる闇(Ahriman)」または「混沌なる闇(Destruction)」と呼ばれます。これは悪、混沌、無知の象徴であり、物質的な囚われの状態や苦しみの源とされます。闇の原理は物質界を創り出し、人間の魂を囚われの状態に置く存在とされています。
人間の選択と救済: マニ教では、人間は光明と闇の間で選択を行い、精神的な解放を目指すことが強調されています。魂が光明に導かれることで救済が成り立ち、闇からの解放が実現されます。人間は知識を得ることで、光明への回帰を果たすことができるとされています。
ラグナロク
ラグナロクは、北欧神話における終末の戦いであり、神々や神話的な存在たちが最終的な対決を繰り広げ、世界が破滅するとされる出来事です。ラグナロクは「論争の神々」とも呼ばれ、古代の北欧の神話において非常に重要なテーマとなっています。
以下は、ラグナロクに関する要点です:
戦争と破壊の予兆: ラグナロクの前には、さまざまな予兆が現れます。これには地球が沈黙し、太陽と月が黒くなり、数々の災厄が起こるなどが含まれます。これらの兆しは、神話の中で未来の終末が近づいていることを示唆しています。
神々の参戦: ラグナロクでは、主要な神々や存在たちが大きな戦いに巻き込まれます。この戦いにはオーディン、トール、ロキ、フレイヤなどが含まれ、彼らはそれぞれの軍勢を率いて相互に戦います。
破壊と混乱: 戦いの結果、神々や神話的な存在たちは相互に滅び、地球自体も大きな破壊を受けます。火と氷が交わり、大地が揺れ動くなど、自然の力も激しく影響を受けます。
炎の巨人: スルトは火と炎の力を操る巨人で、通常は巨大な炎の剣を持っているとされています。その存在は破壊と火の要素と結びついており、ラグナロクにおいてその力を発揮します。
地球の焼却: スルトの登場によって、地球は大いなる炎に包まれ、火で焼かれるとされています。この炎は大地を浄化し、新しい世界の創造へとつながります。
再生と新しい世界の誕生: ラグナロクが終わった後、世界は再生し、新しい世界が誕生します。この新しい世界には若返った神々や新たな人間が存在し、再び平和な時代が訪れるとされています。
ヨハネ黙示録
ヨハネの黙示録(新約聖書の最後の書)におけるキリストの7つの封印は、未来の出来事や神の計画が進む中で明らかにされる一連の出来事を表しています。これらの封印は、ヨハネが天からの啓示を受けたとされる物語の中で述べられています。以下は、キリストの7つの封印についての要点です:
第一の封印:白い馬と弓 - 最初の封印が解かれると、白い馬にまたがる騎士が現れます。この騎士は勝利と征服を象徴し、勢いよく出発します。
第二の封印:赤い馬と大いなる戦争 - 二つ目の封印が解かれると、赤い馬にまたがる騎士が登場し、平和を奪い取り、大いなる戦争が勃発します。
第三の封印:黒い馬と飢餓 - 三つ目の封印が解かれると、黒い馬にまたがる騎士が登場し、飢餓が生じ、穀物が高騰します。
第四の封印:灰色の馬と死 - 四つ目の封印が解かれると、灰色の馬にまたがる騎士が登場し、死とハデス(冥府)が従います。死者の四分の一が殺され、様々な災厄が発生します。
第五の封印:殉教者たちの叫び - 五つ目の封印が解かれると、殉教者たちが神に対して叫びます。彼らは白い衣を着ており、彼らの死に対する望みと信仰が描かれています。
第六の封印:大地の地震と天変 - 六つ目の封印が解かれると、大地の地震が発生し、太陽は暗くなり、月は血のようになります。星が空から落ちるような出来事が描かれます。
第七の封印:沈黙と金の香炉 - 七つ目の封印が解かれると、天で大きな沈黙が生じ、それに続いて金の香炉が登場します。これは神の裁きを象徴し、後の7つのラッパと7つの金杯の出来事に繋がっていきます。
これらの封印は、黙示録における神聖な秘密や未来の出来事の象徴的な描写とされています。一部のキリスト教の解釈では、これらの出来事が未来の終末時における神の計画や裁きを表しているとされています。
まとめ
・万物流転は炎の氷の対立して神話上で表現される
・炎は光・知識・知恵・意思を表し、氷は闇・物質・肉体・無知などに該当する
・氷である闇・物質・肉体・無知の勢力が優勢な場合、世界は無知の深淵に支配される
・炎である光・知識・知恵・意思の勢力が優勢な場合、精神的な存在が物質を纏って降臨し、氷の世界を滅亡させる