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【05】 11月24日インタビュー未掲載分/ 「調律を学ぶ」
いよいよ未掲載分インタビューも今回で最後です。前回【04】 では自分の中で感じていても、表に出しにくい感情や要望について言葉にしてくれていました。
普段の様子からは側から見て感じられなくても、本人だけが感じているやり切れなさ。そういうものが常に自分の傍にあるけれど、それに囚われていても仕方がないと自分なりに受け入れ、進む方向を自分で決めてきた生駒さん。調律を学ぶにあたっても、実は一筋縄でいかない部分もあったようですが、それでへこたれるような人ではありません。
g:調律師を目指すにあたって、わざわざ東京の学校に来たのは何故なの?
夢:いろいろ調べて、期間・カリキュラム・学費とか就職先とか、総合的に見て東京の学校かなって。
g:今の学校は障害ある人の受け入れ実績もあって、インクルーシブ教育にも力を入れているみたいだけど、その辺も重視したの?
夢:あ、全然(笑)。
g:しなかったんだ(笑)。
夢:全然してなかったです、はい。
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g:そうなんだ、実は「調律師を目指してます」って聞いた時、目も使うし大丈夫なの?って思ったんだよね、正直。実際あれだけたくさんの部品があって細かく作られている楽器のメンテナンスを、生駒さんの見え方でできるのかな?って思っていたんだけど、自分では全然だったんだ?
夢:なんかもうやりたいから。なんとかしてやる!って思いました。根拠ないけど「なんとかするしかないや」って。
g:なるほどね、そういうのすごく生駒さんらしいっていうか、「っぽいな」って思う。
夢:バカなんですよ(笑)。
g:(笑)。いやいや、そうは思わないよ。僕は晴眼者だからどうしてもそう考えてしまうんだけど。生駒さんは自分の見え方に納得してるんだろうから「自分の見え方でなんとかする」っていう気持ちだったんだろうな、って想像できるし、逆に自分の見え方に悩んだりくよくよする生駒さんは想像できないしね。
夢:はい、だからそういうのも全部自分次第だと思います、どうするかは。
g:そうだよね、やりたいんだから自分の見え方でなんとかする、っていう気持ちだったと思うんだけど。とはいえ実際にはちょっと難しいぞ、って場面もあるんじゃないかなと思うんだよね、仕事と同じように。
夢:そうですね、はじめは「自分の見え方でどうにかするしかないよな」って思ってて。
g:でもやっぱり細かい所は見づらくて。
夢:見づらくて。実を言うと私、去年は違う学校に通ってたんですよ。今の学校じゃなくて。今年から無理言って編入させてもらったのが今の学校なんです。
g:そうだったんだ。
夢:最初に入った学校でも、視力が弱くても絶対なんとかやってやる、と思って自分なりにいろんな時間を調律に割いてやろうとしてたんですけど、その学校の環境にちょっと納得がいってなくて。で、去年の11月頃に楽器屋さんで調律師のアルバイトを募集してて、そこに行ったんですよ。まだ知識も全然ついてなくて本当に未熟だったんですけど、アルバイトとしてお金をもらいながらピアノの修理をやってたんです。けどやっぱり視力的な所が引っかかっちゃって、続けられなくなっちゃったんですよね。
g:「ちょっと無理だね」ってなった。
夢:はい。「人間的にもいいし、他の所では何も言うことないんだけど」とは言ってもらえたんですけど、でもやっぱり「見えてないんじゃちょっと雇うことができないね」って言われてクビになって。その時は結構絶望だったんですよね、自分の中で。「もう無理かもしらへん」と思ったんですけど、ちょうどその時にミライロハウスTOKYOでレティッサディスプレイ2(以下RD2)を見つけてもらって。「これはいけるかもしれない」と思って。でRD2を使って撮ったのがミライロハウスTVなんです。
g:それまでは、なかなか苦戦をしてたんだね。
夢:苦戦してました。見えにくいし、配慮もなくて、何を言ってるのかわかんなくて。
g:図だったり動作だったりを示されたところで、見えにくいから結局何言われてるかわかんない、伝わらない状態でやれと言われたってできないよね。
夢:うんうん。
g:まあ逆に言うと、よくその状態でバイトしようと思ったなって(笑)。
夢:(笑)。できるかもしれないと思って。めっちゃいいじゃんと思って(笑)。「学校通ってるんです」って言ったら雇ってくれたんですけど、修理した後を見たらできてると思っていた所が全然できていなくて、むしろ壊してしまったりして。「これはまずい」って(笑)。
g:今は学校も変えて、技術も知識もついたのかな?この一年間で。
夢:そうですね、この一年で巻き返しました。もうできます。
g:今の学校は教え方に配慮があるの?
夢:すごく配慮いただいてますね。私に適したやり方があるんじゃないか、って言ってくださって。例えば全体にはAのやり方を示すけど、生駒はBの方がいいんじゃないか、みたいな感じで教えてもらったり。「こういうやり方もあるよ、こっちだったらできるんじゃない」って教えてもらってます。
g:具体的に言うと?見え方、目に頼らないでやる方法があるってこと?
夢:そうです。目に頼らないで触った感触だったり、見るには見るんですけど、定規で細かく見ないといけない所をあらかじめその寸法の工具を手作りで作ってもらって、それに当てはめたらできるようになるとか。
g:なるほど、やりようはあるってことだ。
夢:工房で修行をはじめたのも大きいですね、できるようになった理由として。
g:工房の方でも、もちろん視力については把握してくれてるの?
夢:はい。あとは練習あるのみです。
g:なるほどね。自分がやりたいなと思って諦めないでやったからこそ、今そこにたどり着けたんだろうなと思うし。大したもんだと思うよ、本当に。
未掲載インタビュー、いかがだったでしょうか。全体を通してとても気づきの多いインタビューでした。とくに「自分の要望や感情を臆せず発信できる人ばかりではない」とあらためて認識できた、またとない貴重な機会だったと感じています。
表には出さなくてもそれぞれに抱えている気持ちがあって、それはどんなものであるのか。それを知る貴重なインタビューだったにも関わらず本紙に掲載しなかった、というかできなかったのは「いろいろな意味でちょっと踏み込んだ内容だったので、掲載を躊躇した」というのが一番しっくりくる表現だと思います。いきなりこれだけを読まれてしまってもな、うまく伝わるだろうか…と、そんな風に考えてしまって。でも大切な話だしな、お蔵にするわけにもいかないよな、というわけで「gente vol.019」を読んでもらってからであればより伝わるんじゃないか、と思いこういう形での公開にしたわけですが。まぁ「gente vol.019」を読まずにこれだけを読むこともできるので、絶対的なものではないにしても、自分としては「読んでもらう順番」はつけておきたかった、ということです。
「gente vol.019」と併せてこちらを最後まで読んでいただけた方は、きっと多くの気づきを得ていただけたのではないでしょうか。そうであってほしいなと思います。
未掲載インタビューは今回で終了です。次回更新は5月20日頃の予定、編集後記【Epi-03】 です。
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