【02】インクルーシブな社会を目指すきっかけと、具体的な取組事例
中川さんが勤務する会社の代表、依田和孝さんへのインタビュー未公開分後編です。前回は中川さんを迷いなく採用し、会社として大いに成果を出せた理由とその根底にある考えを伺いました。
今回は中川さんの仕事ぶりによって職場に現れた良い影響や、その他の具体的な事例についてお話しいただいています。
g:障害のある方と、まずは一緒に働く場を作ってしまう。確かにちょっと荒療治のようにも感じられますし、はじめから上手くいくわけではないと。けれども結果としてチームが強くなる、成長する効果が見込めるものなんですね。
代表:たいてい序盤は不満が出ます。なかなか受け入れられない人ももちろんいますよ、「あの人すぐ休む」「早退しちゃった」「話を聞いていない」とかいろいろと出るんですけど、そこはちょっとゆっくり見てあげて、と話をして。本人とも面談して「辛くなる時もあると思うけど」と様子を見ながら。障害を持つ以前は働いていた人も多いので、ベースはあるんですよね。だから時間が解決してくれる所もありますし。
g:現時点で障害によってコンデションを崩していても、就労経験のある人はたくさんいますし、そういう人は即戦力として働けますよね。いろいろな障害に対してそれぞれの見方をすれば、評価できるポイントが何かあるものなんですね。
代表:そうですね。弊社のIT 課で働いている人も、以前PC関連企業で働いていた経験を活かして、PCの起動やセットアップ作業を一日何台もこなしてくれています。働きはじめて2、3か月はたびたび休んだりして少し辛そうだったんですけど、今はもうバリバリ働いてくれています。環境が落ち着けば、皆さん出来ることすごく多いんですよね。とてもA型事業所で働いていたとは思えないくらいですよ。
g:できないことはあっても、できることにフォーカスした結果と言えますね。中川さんについても同じことが言えると思いますが、中川さんが職場に与える影響ついて、もう少し伺えますか?
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代表:仕事をする上で他責の話、あれが悪いとかここが良くないというのは結構あると思うんですけど、中川さんがいるとそういう言葉はどんどん減っていくんですよ。不平不満を口にする職員がいなくなって、そこはすごく職場が変わりましたね。やっぱり中川さんの頑張りが伝わるんでしょうね。「自分たちももっと頑張んなきゃ」という雰囲気が自然と出てくるんです。職場が変わる起爆剤になってますよね。
g:「中川さんはあれができないのに」という話にはならないものなんですね。
代表:介護事業でよくある話なんですけど、現場の事務処理って溜まりがちなんです。でもそれが中川さんのおかげで一切なくなったんですよ。だから現場は大助かりで。最初は周りも半信半疑だったんです、「本当に仕事大丈夫?」って。でも中川さんの頑張りを見て皆「すごいな」と感じたでしょうし、であれば中川さんが動けない部分は自分たちがやるべきだ、と全体でやるようになっていきましたね。「生活相談員なのにこれできないの?」とは誰も言わないし、「これはたぶんできないよね」という部分は全体でやっていました。例えば新規契約の内容説明などはさすがに時間がかかるので、そこは全部管理者が代わりにやって、 記録や連絡など管理者がやるべきことを逆に中川さんが全部やる形で、 役割分担がスムーズにできていきましたね。
g:そういうお互いに仕事をフォローしあう関係性は、もともと職場にあったものなんですか?
代表:いや、特別そういうわけでもでなかったと思います、普通の職場ですね。ただそもそも福祉業界で働いてる人たちの職場なので、障害のある人を無下にするような人はいないので。そういった意味でも中川さんにとっては良かったんじゃないかな。
g:できることにフォーカスした採用の結果と言えますね。
代表:そうですね、4 年間電車通学できている人ですし、パソコンをひと通り使えて成績も優秀だったんですから。これなら他の職員さんたちも仕事はかどるな、とはわかっていたんです。一方で話すのは難しい部分もある、でも生活相談員はケアマネからの電話を受けるのも仕事なので、外線電話にも出るんですけど「声が聞き取れない、何を言ってるかわからない」と管理者に苦情が来ることも時々あったんです。でもそこで「実は障害を持っているんですが、一度ぜひ見学に来ていただけませんか」と説明して。実際に見てもらううと「来てよかった、素晴らしいですね」と理解してくれるんです。
g:職場内に留まらず、社外の人も理解し信頼してもらえるのであれば、与える影響は大きいですね。
代表:そうですね、マイナス面は何もないと思います。「仕事ができる/できない」に、障害は関係ないと思います。
障害者採用については、まだまだ取り組みの進まない企業が多いように感じます。一方で今回取材した在宅支援総合ケアーサービスはじめ、昨年度gente編集部が地域貢献活動として取り組み発行した「わたしと職場と」で取材した企業、株式会社い和多やアクセンチュアのように、着実に成果をあげている企業が増えつつあるのを取材を通して実感しています。
依田代表が実践している「まずは一緒に働いてみる、場を作る」というのは、一見ちょっと荒療治のようにも感じられます。ですが充分な準備が整うまで一緒に働けないというのでは、いつまでたってもその機会は訪れないでしょう。「どんな人にも対応できる万全な準備」なんて、いつまでたっても整わないと思うのです。
障害のある人と一緒に過ごす、働くにあたって「できないこと」ばかりを気にしてそれをどうフォローするかを考えていては、心配は尽きないでしょう。しかし「できることにフォーカスする」その考えにたってみると、いろいろなことがスムーズにいくのだろうなと感じました。
vol.020の未公開インタビューは今回で終了です。
次回からは編集後記。制作の経緯はもちろん、そちらでも障害者採用について少し書いていきたいと思います。
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