【epi-03】vol.020を通して考える、「障害者採用って特別ですか?」

  編集後記の3回目です。
 今回のvol.020取材を含め、これまでの取材の中で雇用や働き方について感じてきたことを書いてみます。


【特別じゃない、「普通の」いい職場】

 「職場での働き方や人との関わりについてフォーカスする」となると、中川さん本人ではなく周りの人にできるだけ話を聞く必要が出てきます。もちろん業務にあたって自分なりにしている工夫や心構えなど、本人にしかわからないこともたくさんあるでしょう。けれども自分がなぜ社内で、どこを評価されているのか?については、なかなか自分では答えようのない部分になってきますよね。で、どうせやるならいろいろな立場の人の話を聞こうと考えてお願いした結果、現在の職場の皆さんに加え以前の部署の上司、さらに採用時に面接した依田代表にお話を伺えることになったんです。
 印象的だったのは、一緒に働く皆さんがそろってほぼ「障害者と過ごした経験や働いた経験がなかったこと」でした。依田代表にしても障害者と過ごした経験があり、それによって障害者に対して先入観のない方ではあったものの、障害について特段詳しいか、専門知識があるかというとそういうわけでもないように見受けられました。取材によってそれが徐々にわかってくる中で強まっていったのは、実は「あ、やっぱりそうなんだ」という思いだったんです。

 先に述べた「わたしと職場と」をはじめ、これまでにも障害者の働き方や職場での関わり方について取材をする機会は、何度かありました。実はその多くが今回取材した在宅支援総合ケアーサービスさんのように、障害の専門知識を持った担当者のいない職場だったんです。とくにそういう職場を狙って取材していたわけではなく、本当に偶然なのですが。で、その都度感じてきたのが「専門知識がなくたって、一緒に働けるんだな」ということだったんです。


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 もちろん専門知識に意味がない、なんてことを言うつもりはありません。知識があればそれに裏付けられた、より細やかな特性配慮や対応が可能になる場面は多々あります。が、「それがなければ絶対無理」「やるべきではない」というのも少々違って。結局のところ最後にモノを言うのは「人としての向き合い方」なんだろうなと、障害者採用について取材を重ねるたびに感じていたんですよね。

 中川さんと現在一緒に働いている皆さんは、口々に「最初はどうなんだろうと思っていたけど、本人が出来る事は自分でやろうとする姿を見て、何でもやってあげなくていいんだと思った」というようなことをおっしゃっていました。かつての上司、佐々木さんも「できない仕事は引き取って、代わりにいろいろお願いしていた」という話で。それを聞いていて思うんです。これって別に「障害者対応」じゃないですよねと。そこにあるのは「中川さんと一緒に、どうやっていくか」それだけです。
 もしこれが、もっと周りを頼りにする人だったら。周囲の方の対応や評価は当然違うものになるはずです。結局その人次第なんです、当たり前のことなんですけど。
 でもなぜか相手が「障害者」となると、「ただ目の前の人に対応する」という考えの前に、無くていいはずのフィルターが一枚かまされて「障害者なんだから特別な対応が必要なんだ」と思い込んでしまう。そんな風に感じられてならないんです。

 例えば知的障害や精神障害の人と一緒に何かしようとするとき、知識があれば特性を踏まえた対応によって、不必要な行き違いや摩擦を生まなくて済むかもしれません。車いすを使っている方、視覚障害の方と何かをした経験があれば、先回りして社内の環境整備ができるかもしれない。けどそれらを先回りして行えなくても、たとえ些細なきっかけで衝突が起きたとしても、それを糧にして次にそうならないようにできるはずだし、それって既に障害者対応ではなくて「その人に、その事柄にどう対応するか」ってことになってますよね。それもこちらから一方的に与えるものでもなくて、その人の意志や希望もあってのものになるはずなんです。

 障害者採用で成果を上げている企業や職場を取材すると、いつもそういう感情に行きつきます。中川さんも自分に出来る事は自分でやる、そういう人だったから周りもそれに合わせて対応していっただけのことで。とてもいい職場だなとは感じましたが、決して特別な職場だとは思わなかったんです。
 このvol.020を通して、障害者と一緒に働くのは別に特別な事でもないんだな、と読者さんに伝わればいいなと思います。誰しも得意不得意、できるできないはあって、それをお互いフォローしあっていくのは当然の話ですよね。「障害者採用だから」と過度に特別視するのではなく、構えすぎずともいいのにな、とあらためて感じたvol.020となったのでした。


vol.020の編集後記は今回で終了となります。
次回からはvol.018の別冊、編集後記をデジタル化してお届けします。
更新は7月後半の予定です。ご期待ください。

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