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作法なんて気にしない!かしこまらずにふぐを自由に楽しめる、焼きふぐ専門店の挑戦
2024年10月、とらふぐ料理「玄品」を展開する株式会社関門海は、新店舗として東京・神楽坂に「焼き福3階」をオープンしました。当店はプライベート感のある、落ち着いた雰囲気が特徴の焼きふぐ専門店です。そこで今回は、ECマーケティング部 部長の伊熊 明子(いくま あきこ)さんに、新店舗誕生の経緯や込められた想いについて聞きました。
株式会社関門海 ECマーケティング部 部長
伊熊 明子(いくま あきこ)さん
全社の販促企画の立案のほか、WEB・通販サイトの運用などを担当。
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「作法は無用」自由にふぐを楽しめる新業態
「『玄品』と『焼き福3階』は、まったく違う業態として取り組んでいます。作法は気にせず、これまでにないほど自由に、ふぐを味わえるお店ですよ」
開口一番、そう語り出した伊熊さん。「作法」とは、「ふぐはポン酢で食べる」「てっさ(ふぐ刺し)は一枚ずつ上品に味わう」「ふぐと言えばてっちり(ふぐ鍋)」など、ふぐ料理店が知らず知らずのうちに醸し出している固定概念を指しています。
「あくまでも、お店の主役はお客様。好みの食べ方で味わっていいんですよ。とにかく美味しいふぐを、存分に楽しんでもらいたいんです」
従来の食べ方ではなく、自由に、自分好みのふぐが味わえるとは、一体どのようなお店なのでしょうか。
焼きふぐ特化で「夏でも繁盛する店」に
「焼きふぐ専門店」の構想は、株式会社個人商店の光山 英明(みつやま ひであき)氏との出会いから生まれました。光山氏は「予約の取れない最強赤身肉店」として知られる「肉山」のオーナーで、これまでに他の飲食店を60店舗以上プロデュースし、そのほとんどを繁盛店へと変貌させた手腕の持ち主です。
共通の知人の紹介で、当社代表の山口は光山氏と出会いました。ある日、「『焼きふぐ』に特化した業態で勝負するのも面白いのでは?」とアドバイスを受け、「ぜひやってみよう!」ということに。即座にアイディアを受け入れた理由は、夏場の集客に課題を感じていたからでした。
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「ふぐは鍋料理のイメージが強く、どうしても夏場は客足が遠のいてしまうんです。『シーズンを通して、お客様にコンスタントにご来店いただける状態を作りたい』という想いから、焼きふぐ専門店の構想は驚くべきスピードで具体化していきました」
光山氏が掲げたコンセプトは、「自由にふぐを楽しめる、個人店のようなお店」。加えて、「ふぐ料理店の延長線にはないような店舗にしたい」という想いから、「玄品」の名前は一切出さずに営業することに。しかし、これまで誇りを持って「玄品」を展開してきた社員たちからは、戸惑いの声が挙がりました。
「従来とは正反対のコンセプトに対し、『個人店って、どう解釈したらいいの?』『”玄品”の名前を出さずに、本当にうまくいくのだろうか』と、当初は私を含めた全員が困惑していました」
それでも、理想とする「夏でも繁盛する焼きふぐ専門店」を目指し、メニュー開発などに取り組んでいきました。
感動を生む、期待以上の接客サービスを目指して
「自由にふぐを楽しめる、個人店のようなお店」。このコンセプトを体現するため、今回新たに取り入れたアイディアがあります。それは、好きな味付けでふぐを楽しめるスタイルです。料理を提供する前に、「ポン酢・塩ニンニク・赤おろし・韓国唐辛子のプルコッチ」の薬味セットを出し、お客様の好みに合わせて調合していただくことにしたのです。
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「従来のふぐの食べ方は、ポン酢・ネギ・赤おろしと組み合わせるものが多く、それが当然のルールのように認知されていたと思います。ですが、その固定概念を取り払い、お客様自身で4種類の薬味でオリジナルのタレを作っていただくことにしました。私も何度か試食させてもらったのですが、ポン酢にたっぷりの赤おろしを混ぜて、そこに塩ニンニクとプルコッチを混ぜたら、ものすごくおいしかったですよ!個人的にはおすすめNo.1の組み合わせです(笑)」
こうして着々とオープン準備を進めた、「焼き福3階」。すると、驚くべきことに、オープン前にして200名以上の予約が入ってきました。その多くは光山氏の知人やファン、食通の方々で、新店舗への大きな期待を寄せられていたのです。しかし、迎えた営業初日、伊熊さんたちスタッフは、大きくつまづくことになります。
「『玄品』とは異なるサービス設計をしていたので、オペレーションを改めて考え直していました。ですが、実際に立ち回ってみると、想定が甘かったんですよね。名刺を渡す、ドリンクを作る、薬味を並べるなど、それぞれのタイミングがずれてしまい、その後の工程が次々と遅れてしまって……。結果的にお客様をお待たせしてしまい、大失敗に終わりました」
翌日も伊熊さんはお店に立ち続け、営業しながら一つひとつの動きを見直し、最適なオペレーションを模索し続けました。現場スタッフに一任せず、自らも店舗で試行錯誤を繰り返した理由は、「個人店のサービスを目指しているからこそ、接客がプラスαの感動を印象付ける」から。
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「飲食店である以上は、料理が美味しいのは当たり前だと思っています。その上で、お客様のニーズを予測し、然るべきタイミングでサービスを行う配慮こそが、腕の見せどころだなと。『このお店は居心地が良かった、また来よう』と思っていただけるかどうかは、接客サービスのクオリティに左右されます。いかにお客様の期待以上のサービスができるか、ご満足いただく以上の感動を与えられるか、そこが重要なんです。
『玄品』ではスーパー店長と呼ばれる人が何名かいますが、みなお客様のニーズを想定して、接客する方ばかりです。その心配りがお客様に喜ばれ、結果としても現れている。だからこそ、ここで妥協はできませんでした」
創業以来、「玄品」はこれまでのスタッフたちが、時間をかけて丹念にオペレーションを練り上げてきました。「一朝一夕では、完璧なサービスを組み上げることはできない」。そう痛感しました。
「焼きふぐ」を足がかりに、挑戦は続く
オープンから約2ヶ月が経った今、来店されるお客様からは驚きの声が上がっています。大ぶりにカットされたふぐ身の食べ応えや、2層のプルプル食感が味わえる「とおとうみ」と呼ばれる部位の美味しさに、多くの方が舌鼓を打っています。
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「今後も『個人店のようなお店』というコンセプトを体現し続けるため、それぞれのお客様に合わせて、より楽しく、喜んでいただけるサービスを追及していきたいです。例えば、毎回決まったお席にご案内したり、バースデー対応でサプライズ演出をしたり、好みに合わせた薬味をご用意したり……まだまだやりたいことはたくさんあります。少しずつでも、お客様の馴染みの店になっていけたらうれしいですね」
今回の神楽坂での成功を足がかりに、2025年1月下旬には「玄品 新宿南」の店舗内で、2号店「千駄ヶ谷 焼き福 浅野」を展開予定です。年中楽しめる「焼きふぐ」を足がかりに、ふぐ料理の魅力は一層広がっていくことでしょう。「『焼き福』の挑戦は、まだ始まったばかり」と力強く語る伊熊さん。ふぐ料理の新たな可能性を切り拓く挑戦から、目が離せません。
取材・文:株式会社ストーリーテラーズ ヤマダユミ