掌編 詩 「雨に誘われて」
ぱらぱらと屋根で跳ねる雨音がきこえてきた
次第に雨あしが強くなり
路上を黒く染めあげる
窓にあたる水しぶきが自己を主張するように
庭の木々がよりいっそう艷を増した
ハイビスカスも花葉を広げて鮮やかになっていく
雨音をきけばきくほど
雨色をみればみるほど
世界が静かに澄んでいく
千貫山にけぶる霧が幻想的な頂を映し
その様相は朝靄の海となんら変わらない
わたしは虹の橋が架かるのを期待して
やさしい雨になるまで西の空を眺めていた
雲間から差す光に誘われて窓を開けると
ぬるい風が心をくすぐる
虹をみることは叶わなかったが
虹がでそうな晩夏の空に
上向いてくる気持ちをもくもくとふくらませた
遠方にいる人の顔がぼやけて、消えていく
東の空に虹がでていたのを知ったのは
翌朝配達された新聞の一面でだった
こんなマヌケな話
メールじゃ伝わらないだろう
ひとり旅の理由ができた