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言葉が名付け直される「レトロニム」<再命名>

ふだん使う言葉のなかには、妙に説明的だったり、いくつかの言葉が合体してできているものがある。気になって調べていたところ、「レトロニム」という概念を知った。時代の移り変わりによって新しいもの・ことが出てきたときに、新しいものと古いものを区別するために、古いものを名付け直した呼び名のことだ。

たとえば「固定電話」という言葉は、携帯電話が世の中に出る以前にはなかった。携帯電話と区別するために「固定電話」もしくは「家電(いえでん)」と呼ぶようになったのである。さらに、後にスマートフォンが登場して、従来の携帯電話は「ガラケー」などと呼ばれるようになった。言葉は次々に名付け直されていく。

レトロニム[retronym]あとから生まれた事物と区別するために名づけられた、もとからある事物の新しい呼称。再命名。 例:携帯電話に対する「固定電話」、デジタルカメラに対する「フィルムカメラ」、同性愛に対する「異性愛」。

三省堂新国語辞典 第七版

もう少し例をあげると「古都」「旧都」という言葉は、もともとは単なる「みやこ」と呼ばれていたものが、遷都などで新たな都が生まれたことで、区別のために古い都を呼ぶために生まれた言葉だろう。

それから「純喫茶」という呼び名は、アルコールをホステスが提供する風俗営業的な「喫茶店」が登場したことで、そうした喫茶店と区別するためにできたそうだ。

もう一つ、俗な言葉を例としてあげると「リア友」という言葉がある。友達とは元来、対面で出会って対面でやり取りをするものだったけれど、ここ最近のSNSの普及によって「Web上のみでやり取りがある友達」を作れるようになった。このWeb上の友達と区別して、対面で会う友達をあらわすために「リア友」という言葉が生まれたのではないかと思う。

ここまで書いて、ふっと思いついた。「同じコミュニティ内に名字が同じ人が複数人になったとき」もレトロニムが発生しているかもしれない。学校の教室で名字が同じ人がいたら下の名前で呼ぶようになるし、職場だったら「課長の佐藤さん」とか「総務課の田中さん」とか呼ぶようになる。これはレトロニムの亜種と言えそうだ。

このようなレトロニムを見ていると「言葉は移り変わる」こと、それから「新しいもの・ことの登場が言葉の移り変わりを促す」ことがわかる。ふだん何気なく使っている言葉のなかに、私たちの生活や文化の変化を映し出すレトロニムが潜んでいる。


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shikada
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