経営に活かしたい先人の知恵…その23
◆人的資本経営実践のススメ◆
中国の古い教えに、「実に恐るべきは民であります。舟を載せ浮かべるのも水であれば、船を転覆させるのも水であるように、君(トップ)を立てるのも君を滅ぼすのも民(組織の構成員)であります」(『貞観政要』・魏徴)、とある。
これは、あらゆる組織に通じる真理と言える。現場で働く人たちの支持を得られなければ、組織の将来はない。それだけに、多くが社員を大切にすると言う。しかし、心の底からそれを実践しているトップはどれぐらいいるのだろうか?以下のドラッカーの指摘は、その真理を突いているように思えてならない。
「あらゆる組織が『人は宝』と言う。ところが、それを行動で示している組織はほとんどない。本気でそう考えている組織はさらにない。ほとんどが、組織が社員を必要としている以上に、社員が組織を必要としていると信じ込んでいる。しかし事実上、すでに組織は製品やサービスと同じように、あるいはそれ以上に、組織への勧誘についてのマーケティングを行わなければならなくなっている。彼らに仕え、満足させなければならない」。
ドラッカー以外にも同様の指摘をする人は多い。『フリーダム・インク』の共著者アイザーク・ゲッツとブライアン・カーニーは同著に、「『我が社の社員は最大の財産だと考えている』という経営者は多いが、実際のところ、大半の社員はそんな言葉を一言も信じていない」と書いている。
では、社員にどう対応すればいいのか。参考になるのが、アメリカの政治学者ジェームズ・マグレガー・バーンズの次のアドバイスだ。「リーダーたちに極めて実用的なアドバイスをしよう。人質を人質らしく、王子様を王子様らしく扱うのではなく、すべての人を人間らしく扱うと良い」。
何も大げさに、宝とまで言わなくていい。社員を人間らしく扱えばいいだけのことだ。ところが現状は、宝と言いながら、単なる働き手と考えているとしか思えないケースが多い。
格好の良い言葉はいくらでも口にすることができる。問題は、その言葉通りに実践できているかどうかだ。ドラッカーが言うように「人は宝」というのであれば、本当に人を宝として扱わなければならない。「有言不実行」は、信頼を損ねる一番の要因だろう。口にしたのなら、実行すべきだということだ。
最近は、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値向上につなげる経営、すなわち「人的資本経営」の必要性が説かれているが、これを文字通りに実践することで、日本企業の生産性を高めて欲しいと願っている。
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