疋田文明
◆現場優先主義が企業を発展させる◆ 孟子に「天子や諸侯(知事クラス)の巡遊は、ただの遊びごとではなく、みな大切な職務なのです。春は耕作を見ては種子の不足などを補ってやり、秋は収穫を見ては、道具や人手の不足などを補い、助けてもやります」とあるが、これはビジネスでも大いに参考になる教えだ。 よく組織のトップが現場に顔を出すことが奨励されるが、あくまでもその目的は、現場で従業員が困っていることはないか、お客さんが不満に感じていることはないかということを自分の目で確かめ、問題
◆給与水準を上げるだけでは不十分…職場からストレスを排除せよ◆ 孟子は「恒産なくして恒心なし=安定した仕事、収入がなくても、安定した心を失わずにいられるのは、限られたごく少数の学問や教養のある人だけで、一般庶民は恒産がなければ、恒心はないものだ」と言っている。 古今東西、人間の本性は変わらないようで、欲求の五段階説で知られるマズローも、「人間は経済的安定を確保すると、その後は価値ある人生や創造的で生産的な職業生活を求めて努力する」と、同様の指摘している。 このこと
◆ひとりでは何もできない…人をよく用いる力◆ 始皇帝の秦が崩壊したあと、天下取りを競ったのは、司馬遼太郎の小説でもお馴染みの項羽と劉邦だった。軍勢では圧倒的に劣勢だった劉邦が、なぜ項羽に打ち勝って「漢」を建国できたのか。その理由については、次のように語られている。 「はかりごとを本陣のとばりの中で巡らし、その結果、勝利を千里の外で決する点では、わしは子房(張良)に及ばない。国家を鎮め、人民を手懐け、食糧を供給して糧道を断たない点では、わしは蕭何に及ばない。百万の軍をつら
◆「より多くの人民を救うこと」こそ経済活動の意義◆ 「人類の教師」(和辻哲郎命名)とも称される孔子は、経済活動にどのような見解を持っていたのか。「最初に利を考えるのは、評価のできない小人」との言葉が「論語」にあることから、お金儲けを否定していると思われがちだが、決してそうではない。それは同じく「論語」に見られる、「富貴は人情の欲するところだから、これを求めて悪いことはない。しかし、道理に叶った方法によって手にした富でなければいけない。貧賤を憎み、嫌がるのは人情だから、それ
◆行動なくして物事は成し遂げられない◆ 孟子は「できないと言うのは、多くの場合、やらないからである。何事もやろうと思えばできるはずである」と言っている。江戸時代、米沢藩を再興した上杉鷹山は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」との言葉を残しているが、これは孟子の教えそのもので、行動しなければ物事は成就しないということだ(本稿6参照)。 経営で大事なことは何かと訊かれれば、行動力だと私は答える。いくら「経営理念」「パーパス」が立派でも、それらが
◆小さな改善の積み重ねで大きな飛躍◆ 老子は「九層の台(うてな)も、塁土より起こる。千里の行も、足下に始まる。九層建ての高殿も、元は小さな土くれを積んだところから起工する。千里の道を行くのも、足元の一歩一歩から始まる」と説いている。 この老子の教えを実践して篤農家と呼ばれるようになったのが、二宮尊徳(金次郎)翁だ。1787年、相模の国・栢山(現小田原市)の農家に生まれた尊徳翁は、14歳で父を、16歳で母を亡くし、伯父の元に引き取られた。尊徳翁は、伯父の手伝いが終わった後
◆単純な問い掛けが組織と人を成長させる◆ ソクラテスは弟子に教えることはせず、「質問を繰り返すことで物事の本質に気づくようにリードしていった」という。この逸話は、「ソクラテス的問答法」として今に伝えられているが、この手法は自ら考え、自ら行動する人間を育てるために、大いに活用すべきだと私は考えている。 経営学者・レビット(ハーバード・ビジネススクール元教授)は、「経営者が行うべきもっとも大切なことは、単純な問いを投げ掛けることである。我々はなぜそれをするのか。なぜそのよ
◆組織を危うくする腐ったリンゴ◆ 経営学者・ドラッカーは、リーダーにとって最良のテキストは、クセノポン(古代ギリシア・アテナイの軍人、著述家)の著書「アナバシス―敵中横断6000キロ」と「キュロスの教育」だと指摘している。私は2冊とも目を通したが、確かに経営に活かせる記述が多くあった。本稿では、チームプレーについてのキュロス(アケメネス朝ペルシアの建国者、紀元前600年頃~紀元前530年)の教えを紹介していきたい。 「数頭の馬が引く戦車は、鈍足な馬が中に入っていると、速
◆コミュニケーションを考える◆ お釈迦様は、相手が理解できる言葉を使って法を説かれた。農業に従事している人には、農業を話題にするなど、相手の認知能力に合わせて説法されたが、これは「対機説法」と呼ばれている。 この「対機説法」にコミュニケーションの真髄があると私は考えているが、同様の考えを持っていたのが、経営学者のドラッカー氏だ。次のような言葉を残している。「プラトンの『パイドン』によれば、ソクラテスは『大工と話す時は、大工の言葉を使わなければ伝わらない』と説いた。コミュ
◆ものごとに必ず見られる利害両面◆ 『孫子』に「知恵の働く者は、必ず利害の両面を合わせ考える。利益になることを考える時には、害の面も合わせ考えるから、その仕事は順調に進む。害になることを考える場合にも、利益の面を合わせ考えるから、その心配ごとも解消するのである」とある。 ものごとには、メリットがあれば必ずデメリットもある。決断する際に、利益の面ばかりに目を奪われていると、落とし穴に嵌りかねない。常に利害両面を考えることで、成功の確率は高くなり、リスクは低くなるとの指摘だ。
◆なぜ子孫の代で衰退するのか◆ 経営の世界をフィールドワークにして40年超になるが、改めて痛感しているのが、組織を持続することの難しさだ。一代で企業を立ち上げ、名を成した経営者は数多くいるが、終わりを全うできなかった経営者もまた多い。首尾よく事業承継できたとしても、その後衰退する企業も目立つ。 持続的に成長できず、終わりを全うできない組織が多いのは、昨今の日本に限った話ではない。二代目、三代目と続くにつれて弱体化していくことは、古の中国も同じだった。唐の二代目皇帝・太宗
◆過去の業績を現在の地位で報いてはならない◆ 後継社長を対象にした勉強会『元気塾』を20年近く主宰しているが、メンバー共通の悩みの一つに、先代社長時代に幹部として会社を支えてくれた人材の処遇がある。過去の功労者にどう対処すればいいのか。私はその答えを『貞観政要』の中に見出し、アドバイスしている。 中国・唐の二代目皇帝太宗は、名君として知られているが、統治後10年余り経つと、幹部クラスの規律が緩んできたことを憂慮していた。そこで、その理由を臣下に聞いたところ、次のような
◆「継続学習」のススメ◆ 中国の古典・『礼記』に、「玉も磨いて光沢を出さなければ、宝玉として通用しないように、人は、学んで物事の道理を心得ぬことには、才能を発揮することができない」との言葉があり、『論語』には「学ぶに勝るものはない」と記されている。 学習で得られる成果とは、一体どのようなものなのか? まず挙げたいのは、何が正しくて、何が間違いなのかを、判断する力が身につくということだ。人は年を重ねるとともに、自ら判断しなければならないことが増えてくるが、知識が増えれ
◆小事を捨て置けば大事に至る◆ 『貞観政要』に、太宗(唐二代目皇帝)が「すべて大事というものは小事から起こるものである。小事を問題にしないで捨て置けば、大事の方はどうにも救うことができないようになる」と語ったと記されている。問題が大きくならないうちに手を打つべきとの指摘だが、これは企業経営にも相通じるものがあるだろう。 労働災害の分野に、ひとつの重大事故の背後には29の軽傷事故があり、その背後には300のヒヤリ・ハット(災害に至らなかったが、ヒヤッとしたことハッとしたこ
◆良薬は口に苦し◆ 『孔子家語』に、「良薬は口には苦いけれど、それだけ病気に効き目があり、忠言は耳障りにはなるけれど、それだけ行動の是正に効き目がある。その証拠に、殷の湯王、周の武王には喧々諤々の忠臣があればこそ国が栄え、夏の桀王、殷の紂王の臣下は皆、唯々諾々のご機嫌とりばかりだったので国が滅びた」とある。湯王、武王は優良なリーダーの、桀、紂は無能なリーダーの代表格で、これが日本でもよく知られる「良薬は口に苦し」の教えだ。 本稿22で、優良なリーダーは、兼聴する(より多
◆事業構造の見直しが収益力向上への第一歩◆ 30年も停滞していた日本経済に、いくつか明るい兆しが見えてきた。その最たるものとして、私は新規開業率が高くなってきたことを挙げたい。2000年代に入ってから5%前後で推移してきた開業率が、2023年には前年比で8,9%増加(2024年6月30日日経新聞)したという。かねてより、開業が活発な国は、経済成長率も高い傾向があるとされている。日本経済も、成長が期待できると考えていいだろう。 一方で、企業にとっては、人件費の上昇と仕入れ