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マネジメント(著:P.F.ドラッカー、訳:上田 惇生)

言わずと知れた名著。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」として流行した本があったが(映画化やアニメ化もされている)、その本に登場する女子マネージャーが読んだのが、まさしくこの「マネジメント」だ。

私が手にした本書の帯には、次のような一文がある。

「変化」のときこそ、「基本」を確認しなければならない!

この一文は本書の特徴を良く表している。ドラッガーはこの本の中で、突飛なアイデアを提示しているわけでもなければ、誰も持っていない視点を示しているわけでもない。経営関連の書籍で溢れかえっている現代においては、本書に書かれていることと同様の内容は、どこかの本に書かれていることだろう。

それでは本書の価値は何か。それは、基本を「煮詰めた」とでも言いたくなるほどに、立ち返るべき基本のみを徹底的に語っている点にある。例えば、第1章「企業の成果」の冒頭に次のような言葉がある。

企業の目的の定義は1つしかない。それは、顧客を創造することである。

これ以上なくシンプルかつ普遍的な定義だ。企業の目的は、利潤でも、社会貢献でも、従業員の幸福でもない。これらは究極の目的を達成する上で、副次的に達成されるものである。企業は顧客を創造する。究極的にはこれしかない。

この視点を忘れると、企業は向かうべき方向を見失う。そしてこの「指針喪失」状態は決して珍しいことではなく、ほとんどのケースにおいて企業は自分たちの目的が見えていないという。第1章には次のような文章がある。

「われわれの事業は何か」との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかり切った答えが正しいことはほとんどない。「われわれの事業は何か」を問うことこそ、トップマネジメントの責任である。

企業の目的と使命を定義するとき、出発点は1つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。

ドラッガーの言っていることはシンプルだ。しかし、シンプルだからと言って実践が容易であるというわけではない。上に書かれているようなことは、頭では誰にでも理解できることだろう。しかし多くの企業では徹底できていない。故に、ドラッガーは本書で「立ち返るべき基本」を説き続けているのだ。

本書は、何か新しい知識を獲得しようとしても得られるものは少ないだろう。しかし、経験を積めば積むほど深みが増すような「知恵」を得たいなら、本書は好適である。著者の示す「基本」は、噛めば噛むほど味が出てくるような、読者へ長期的に配当を出し続けてくれる知恵である。

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