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再読:The Long Game (著:ドリー・クラーク、Discover 21)
長期的視点を改めて取り入れるべく、以前読んだこちらの本を再読。今回は本書で語られている戦略的忍耐の重要性と実践方法に着目して読みました。
前回読んだ記事はこちら↓
Long Gameを戦うには「雨粒が落ちてくるのを待つ」という思想が必要
本書は「短期で成果を出すための方法」は一切書かれておらず、ひたすらに「長期的視点に立って、将来成果を出すための方法」が書かれています。短期的成果と長期的成果。これは時間軸が異なるだけではなく、そもそも成果を出すための考え方が異なります。
短期的成果の場合には、インプットとアウトプットが直結していることが多い。この知識やスキルを手に入れたら、すぐにこういう成果が出るようになる、というのが短期的成果の思考法です。そして世にある多くのビジネス書は、こういった考え方を基に書かれています。それは即ち、そういった考え方を多くの読者が求めているということです。
一方で長期的成果の場合には、インプットとアウトプットは綺麗に結びつきません。どのインプットがどのように作用して将来のアウトプットにつながるのかは、はっきりと説明できない。時間が長期になると、その間に作用する要素が多く、それらが相互に影響し合うので説明が難しくなるのです。
故に、長期的成果の思考法は「粘り強く続けていると、あるとき勝手に雨粒が落ちてくる」という形に帰着します。インプットとアウトプットのつながりを明確に説明することは難しくても、インプットを蓄積していると急にアウトプットとして具体化する、ということです。
本書では例えば、「自分の意見を発信し始めてから何か反応が出るまで2−3年かかる。何も反応がない時期を乗り越える粘り強さが必要」と説明されています。
「ハイコンセプト」などで知られる作家、ダニエル・ピンクがキャリアの浅い若手に語った言葉は、長期的視点の重要さを表しており印象的です。「君のキャリアはまだ3年で、私のキャリアは20年。君に必要なのは時間だ」。
長期的成果を求める場合には、こういった思考の切り替えが必須です。しかしこの切り替えはなかなか難しい。人は因果による説明を求めるからです。ビジネス書では短期的成果の出し方が求められるのもここに理由があり、「やり続けていると、メカニズムは不明瞭でも成果はちゃんと出るよ」という説明では多くの人は納得しないのです。しかし、多くの人が納得しないからこそ、Long Gameをプレイできる人は差をつけることができます。
Long Gameを実践するポイント
では長期的成果を出すための思想を取り入れた上で、何から始めたら良いのか。そのヒントも本書には多く含まれています。
①絶対にやりたいこと、やるべきことだけに絞る
なんだか当たり前のことに聞こえますが、ここで重要なのは「絶対に」という枕詞です。以前紹介した「エッセンシャル思考」という本に、90点ルールという取捨選択の考え方が出ていました。90点に満たないことは、どんなに良いチャンスでも手を出さないということを徹底するルールです。
本書で語られていることも同じことです。「絶対に」やりたいこと、やるべきことだけをやる。選択と集中を徹底するということです。
なぜこれが重要なのかというと、長期戦を戦うには信念を要するからです。中途半端なことだと途中でやめても良いかなと考えてしまいます。絶対にやりたいことなら、多少波があっても継続することができる。シンプルな話です。「絶対」の基準をブラさず、核となる原則や価値観を忘れないことが、長期戦を戦う上での軸になります。
②20%ルールを導入し、20%は最悪失っても構わないと考える
長期戦に持ち込むと、短期では負けることが多くなります。ビジネスやキャリアで言えば、要は最初は稼げない。
故に、いきなり長期戦にフルベットしてしまうと、お金が回らなくなる可能性があります。先立つものがないと長く続けることは不可能です。これでは本末転倒なので、20%から始めようというのが本書の主張です。
80%で必要十分な生活は送れるというセーフティネットを持つ。その上で、新たな挑戦は安定収入になるまで時間がかかるので、20%ルールの中で取り組む。これが鉄則というわけです。
ただし、この20%も短期的に掛け捨てというわけではありません。例えばブログを始めたとして、伸びるまでには正攻法だと何年もかかるでしょう。しかし最初の数ヶ月間でも、知識、情報収集スキル、執筆スキル、言語化力などは高まっているはず。もしブログが伸びなくても、最低限の利益は回収できているとも考えられるので、20%の挑戦に投資する価値はあるということです。
③学ぶ→コンテンツを創造する→シェアする
何かに挑戦するとき、学ぶことは大切です。いうまでもないことですが、学ばないと何も進みません。
一方で、学ぶことは最初の一歩であり、それが挑戦の成功に結びつくことがないことも事実です。なぜなら、誰もその人の挑戦を見つけられないからです。挑戦を誰かに見てもらわなければ、成果には結びつきません。
故に、学んだことや経験したことを、人が見たり聞いたりできるもの=コンテンツに仕立てることが肝要です。
そして、それをなるべく多くの人に届けられるようにシェアしていく。現代はインターネットがあるのでその点便利です。同じコンテンツを複数の媒体やプラットフォームに流してもよいので、とにかく面をとっていくことで「見つけてもらいやすく」する。こうすることで、ようやくその人の挑戦が誰かの目に止まりやすくなり、将来の成果につながりやすくなります。
当たり前のようですが、この「接触面を増やす」努力を怠るが故に、挑戦し続けているのに思ったより成果につながらないことがあります。故に、本書ではこの点を指摘しています。
おわりに
長期的視点の重要性と、長期戦を戦うための思想と実践方法を伝えてくれる本書。時間を味方につけたい人におすすめの1冊です。