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ハーバード式「超」効率仕事術(著:ロバート・C・ポーゼン、訳:関美和、ハヤカワノンフィクション文庫)
日本語のタイトルは「ハーバード式」という言葉がついているが、原題はシンプルに”Extreme Productivity”。弁護士、資産運用会社の役員、トップビジネススクールの講師等に従事し、弁護士時代には「東海岸で一番仕事が早い弁護士」と顧客に呼ばれたほど生産性の高い人物が、著者であるRobert Pozen氏。著者は「どうしたらそんなに多くのことをこなせるんですか」という質問をよく受け、HBRからインタビューを受けた記事が話題となり、反響が大きかったため本書が執筆された。
私は本書を20代中盤で手に取った。会社内で部署が変わり、あまりにも多いその仕事量に埋もれながらギリギリで精神を保ち、何とか生き残る方法を模索していたときだった。当時は本書に書かれていること全てを理解できたわけでもないし実践できたことというとその内のさらにごく一部だったが、「生産性を高めるとは、こういうことなのか」ということがよくわかり、あまりにも仕事量が多い現状を切り抜けるために必要な思考と行動をインストールするために本書に書かれていることを基本方針として実践し始めることができた。それから定期的に本書を読み返しているが、読むたびに発見と学びがある本であり、キャリアが発展していくにつれ本書は益々役に立ち、実践できることが増えていく。
本書では、様々な考え方やアドバイス、Tips等が示されているが、これら全てが冒頭に示されている3つのポイントに集約される。
目標を明確に表わし、優先順位をつける。これが、優先順位に従って時間を配分する助けになる。
最終的な結果を念頭に置く。優先順位の高いプロジェクトに取り組む時は、早い段階でたたき台となる仮説を立て、それを指針にする。
雑事に手間をかけない。優先順位の低いことはできるだけ時間を使わずに片付ける。
1点目は本書に限らず様々なビジネス書で言われていることだが、本書が優れているのは「優先順位のつけ方」を具体的に示している点だ。優先すべきことからやっていくという考え方自体は理解しやすいが、実践するとなると「何を優先するか」にセンスの良し悪しが反映されることがわかり、結局のところ「生産性の高い人は、優先順位のつけ方がうまい」という話になってしまう。重要なのは生産性を高めるために「何を優先するか」の考え方や手法を身につけ、実践することである。
本書で語られている「何を優先するか」の考え方は非常にシンプルで、要は「需要と供給の双方を考慮して優先度を決める」というものだ。需要とは、「組織や上司が必要としていること」であり、供給とは、「自分がしたいことと得意なこと」を指している。需要ばかりを気にしていると、自分の望むキャリア形成につながらない。一方で供給ばかり気にしていると、周囲や社会のニーズを満たせずに自分の市場価値が上がらない。どちらか1つでは片手落ちになるので、双方を考慮するということだ。
優先順位が決まったら、実際に自分が何に時間を使っているかを計測する。本来的には、優先度の高いものに最も時間を使い、そうではないものには最低限の時間を充てる、という配分になっているべきである。しかし、おそらくほとんどすべての人がそうはなっていない。そのズレを解消していくために何をすべきかを考えること、これこそが生産性向上の第一歩となる。
2点目は、よく使われている言葉で表現すると「仮説思考」を実践せよ、ということだ。最近紹介した以下の本に沿えば、ピクサー・プランニングやフランク・ゲーリーの仕事の進め方がそれにあたるだろう。
仮説を立て、結果から逆算して動く仕事の取り組み方は、劇的に生産性を向上させる。無駄足を踏む回数を減らし、手戻りをなくし、試行錯誤が着実に前進に繋がるようになるからだ。以前に以下の記事にて詳述したが、仮説思考は「無秩序に秩序を作る」性質が強くなってくると益々威力を発揮する。つまり、基本的にはポジションが上がっていくほど、仮説思考はその有効性を増す。
そして、仮説思考を実践するには「職場にいる時間ではなく知識を通して生み出される価値に貢献がある」という考え方を持つことも重要だ。時間を貢献のベースとして考えると、仮説思考は実践しにくい。仮説思考は「短い時間で高い成果を出す」ためにあるからだ。そもそもの仕事のスタンスを転換することが、仮説思考を錬成していく上での大前提であり、本書ではその点についてもしっかり触れられている。
3点目は、1点目と密接に関連している。自分が何に時間を使っているかを把握してみると、優先度が低いものに時間を使っていることがわかってくる。しかし多くの場合、必要だから時間を使っているのだ。であれば、どのように投下時間を減らすかを考えることが重要になる。
著者が推奨するのは、「OHIO (only handle it once)=その場で処理する」ことと、「ながら仕事をする(ただし100%の集中を要するものはながら仕事をしてはいけない)」という2つの方法だ。そして、実践する上での前提となる考え方として、「完璧主義を捨てる」。仕事には濃淡、グラデーションというものがある。「濃い」仕事、つまり優先度の高い仕事は、完成度を高くしていっても良いかもしれない。しかし「薄い」仕事、つまり優先度の低い仕事には完成度を求めてはいけない。全てを一様に塗りつぶすような仕事のやり方を捨てることが、雑事を最小限の時間で片付けるための大前提だ。
本書は、このシンプルな3つのポイントを軸に、日々のルーティンや、「読む・書く・話す」スキルの向上法、チームマネジメント・ボスマネジメントに至るまで豊富な生産性向上法を紹介している。1つ1つの手法はもちろん重要だし役に立つが、最も大事なのは上で示した3つの考え方を深く理解し、実践し続けることだ。この3つのポイントには、生産性を継続的に向上させるためのヒントが凝縮されている。