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ランチェスター思考(著:福田 秀人、東洋経済新報社)


ランチェスター戦略の考え方について、そもそもの戦略の考え方のような前提から丁寧に説明してくれている1冊。


ランチェスター戦略は和製戦略論

「ランチェスター戦略」という名前からして海外発の戦略論のように聞こえるかもしれないが、実は日本初の戦略論である。第一次世界大戦時、イギリスのフレデリック・ランチェスター氏が提唱した戦闘法則「ランチェスターの法則」がベースであるため、「ランチェスター戦略」と名付けられている。しかしこの法則をビジネスに応用したのは日本人コンサルタントの田岡信夫氏だ。

https://www.jmca.jp/prod/teacher/1670

上に添付した田岡氏の人物紹介にも記載されている通り、ランチェスター戦略は販売戦略としてスタートしている。現在は販売に限らずより広義の経営戦略論として各所で応用されているが、もともとは「モノを如何に売っていくか」という戦後の高度経済成長期における企業のニーズにぴったりと合致した理論だったのだ。

弱者が良い意味で「小賢しく」戦うための考え方

ランチェスター戦略は弱者のための戦略論である。そこには、精神論や一発逆転の発想は介在しない。弱者が弱者であることを明確に認識したうえで、いかに戦っていくかをクールに考え、実践していくための理論だ。

弱者は強者と真正面からぶつかっても勝てる見込みが著しく低い。つまり正々堂々の勝負は避ける必要がある。弱者が勝つには、良い意味で「小賢しく」戦う必要があるのだ。

では「小賢しく」戦うにはどうすればよいのか。ランチェスタ―戦略においては、いくつかの基本的な考え方があり、私なりの言葉で要約すると次のとおりである。

  1. マーケットシェアを基軸にして考える。

  2. マーケットシェアでトップを獲ることを目標にする。

  3. そのためには、セグメントを絞り、トップシェアが獲れそうな領域を見定める。

  4. その領域にリソースを1点集中する。

  5. 1つの領域でトップシェアを獲ったら、そこを軸にトップシェアを獲れる領域を広げていく。

言い換えれば、「全方位戦を捨て、局所戦で勝て」ということである。マーケットシェアをベースにする理由は、トップシェアの事業はそのマーケットの美味しいところを享受し、かつ安定的な市場を築くことができるからだ。局所戦でも、トップシェアを獲れば安定的な事業基盤を1つ作れることになる。

「リソースの1点集中&突破」というど真ん中のセオリーだがなぜか実践されない方法論

本書でも何度か言及されているが、戦略というものは複雑であってはならない。複雑なものは修正も実践も困難だからだ。そして、企業戦略において「リソースの1点集中&突破」というど真ん中のセオリーである。以前紹介した、戦略論の大家ルメルト氏の著書「良い戦略、悪い戦略」には次のような文章がある。

良い戦略はかならずと言っていいほど、このように単純かつ明快である。パワーポイントを使って延々と説明する必要などまったくないし、「戦略マネジメント」ツールだとか、マトリクスやチャートといったものも不要だ。必要なのは目の前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素―――すなわち、こちらの打つ手の効果が一気に高まるようなポイントをみきわめ、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる。

(良い戦略、悪い戦略 序章「手強い敵」より抜粋)

ランチェスター戦略は、ルメルト氏が定義する戦略を地で行く戦略論である。つまり戦略の基本を語っているとも言える。ではなぜ、基本を改めて語っているような理論が評価されるのか。それは単純な理論ほど実践が難しいからだ。

ランチェスター戦略は、単純明快だが実践にハードルがある「戦略」というものの基本的な考え方を、実戦で役立てられるように「マーケットシェア」という客観的指標を軸に独自の視点で深掘りを行った。ここに大きな価値がある。弱者が、勝ち方を学ぶだけではなく、自ら実践できるように弱者の立場に立って設計された理論であるからこそ、数々の経営者や企業から高く評価を受けてきているのである。

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