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読書する人だけがたどり着ける場所(著:齋藤孝、SB新書)
普段は手に取らない本を、と思い購入。メディア出演もされていて有名な齋藤孝氏による、累計20万部を突破しているベストセラー。普段はあまり読書をしない層をターゲットに読書の良い点を伝え、読書へと誘うことを目的としている本だ。
読書習慣のある人が本書を読むと、普段考えていることや感じていることがここに書かれているという感想を持つのではないだろうかと思う。それでは読書習慣のある人が本書を読んで学びがないのかというと、そんなことはない。様々な読み方や読書の面白さ、読書を通じた現実の楽しみ方など、普段の読書体験を更に引き上げるヒントが本書には多く含まれている。
私は、読書によって「深みを感じとる力」が得られるという本書の記述を読み、改めてこの点を考える機会を得た。読書を何年も続けていると、1冊の本を読んだ時に「より深く楽しむ」ことができるようになる。既に読書習慣は15年以上続いているが、習慣を重ねれば重ねるほど、読むのが上手くなっていっている感覚がある。
この「より深く楽しむ」力は、読書だけではなく日常生活にも染み出し始めている。レストランに行ったときに、知っているようで詳しくは知らなかった料理の調理法や起源、味の特徴などを知って楽しむようになる。仕事でクライアントと話している時に、自分とは全く異なる視点で物事を見ているその視座に関心を抱き、どのような「環世界」を持っているのか探求したくなる。日常のちょっとした要素が、全て「深く楽しむ」対象となる。
ピカソの有名な小話がある。次のような話だ。
ピカソが市場を歩いていると、ある婦人が呼び止めた。彼女はピカソの大ファンで、絵を描いて欲しいという。
快諾したピカソは、さらさらと絵を描き上げた。婦人は喜び、いくらなら絵を譲ってもらえるか尋ねた。ピカソはこう言った。
「このスケッチは100万ドルです」
婦人は驚き、高すぎると言った。たった30秒で描いた絵が、どうして100万ドルもするのか尋ねた。するとピカソはこう答えた。
「いいえ、30秒ではありません。私は、これまでに30年もの研鑽を積んできました。だから、この絵を描くのにかかった時間は、30年と30秒なのです」
引用元のサイトによればこの小話はピカソのエピソードではないようだが、私が言いたいのは「今この瞬間に発揮されている力は、全て過去の集積の結果である」ということだ。
読書という活動も、その1つ1つを取れば「1冊の本を読んだ」という個別的な経験である。しかし、それが何年にも亘り積み重なると、その次の1冊を読む時には過去の読書経験が一気にその1冊へ集中し、「深い楽しみ」へと読者を誘う。この知的快楽を一度味わうと読書はやめられなくなる。まさに「読書する人だけがたどり着ける場所」である。勝手ながら、著者も同じような感覚を(無論、私よりも遥かに鋭敏に)持たれていて、その感覚を平易な言葉で説明しているのが本書ではないかと想像している。