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心化粧17 ― 空鍋
今日も幸せ!
今日もカリピーに褒められた!
「あたし、かわいい!」
「あたし、すっごい美人!」
「君を彼女にしてよかった!」
「愛してる!」
そう言ってくれた。
あたし、彼氏のこと大好き!
パパもママも大好き!
クラスメイトも先生も大好き!
みんな、世界中のみんな、大好き!
私は今日も笑顔でいる。
私は今日も薄らと化粧を塗る。
みんなが私のことを「かわいい」って言ってくれるから。
私は、私に嘘をつけない。
だから、私はこの世界が大好き!
この世界はなんて美しいんだろう。
すべてが輝いている。
まるで白昼夢のように……。
あまりにも素晴らしすぎて、
頭がどうにかなってしまいそう。
……私って、今、何考えてるんだろう?
パパもママもいないのに、
彼氏だっていないのに、
クラスメイトも先生も……
私、私……?
ああ……頭が爆発しそう。
どうしよう。
どうしよう。
私、嘘ついちゃった。
パパもママも、
彼氏もクラスメイトも、
先生だって、
……本当は、誰もいないのに。
私、嘘ついちゃった。
だから、心が、頭が、爆発しそう。
どうしよう。
私、私、私……
ああ、どうしよう。
嘘ばっかりついちゃったから。
どうしよう。
頭が痛い。
嘘ばっかりついちゃったから、
何にも答えられない。
どうしよう。
目がくらんできた。
目がぐるぐるしてきた。
苦しい……どうしよう。
気持ち悪い……ああ、私、どうしよう。
何もかも、嘘ついてるの。
……ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
嘘をついて、ごめんなさい。
だって、だって、だって……
私、幸せになりたかったんだもん。
私、幸せになりたかっただけなんだ。
ただ、ただ、それだけなんだよ。
でも、私が作ったこの「幸せ」は、
私が創り出した幻想に過ぎなかった。
この世界は私の頭の中の空想だったのだ。
パパもママもいない。
彼氏もいない。
クラスメイトもいない。
先生もいない。
……本当は、最初から何もなかったのに。
私が生み出した「幸せ」に、
私は、私自身を騙し続けてきた。
……私は誰?
私は、本当の私を知らない。
いつ生まれて、
誰に育てられ、
誰に愛されたのか?
ここはどこ?
私は、何?
本当に、存在しているの?
……分からない。
何も分からない。
私、本当は生きていないの。
そう、私って、
遠い昔に、
いなくなっちゃってたんだ。
だから、全部嘘じゃないの。
だって、私の声は……
みんなに届いてるから。
だって、私がいないんだもん。
私がいなければ、
全部いなくたって嘘じゃないもん。
よかった。
ああ……
少しずつ、めまいが取れてきた。
心のドキドキがなくなってきた。
ああ……やっと。
やっと本当の私を知れたんだ。
よかった。
本当の私って……
こんなに冷たかったんだ。
でもね、
明日は来ないんだって。
だって、私、いないんだもん。
私は、今この瞬間にしか存在しない。
……妖精。
ああ、私の声、みんなに届いてるかな?
みんな、私の声を聞いてくれた誰か……
私のことを、愛して。