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サボテン(1831種類)の辞典
概要
タイトルの通りです。この世にあるサボテンの全部、150属1831種類を全て調べ、鑑賞価値がある800種をまとめた辞典を作ってみました。
業者が作るカタログのように学名と画像で対応させています。
導入
カタログの分類法
日本はサボテンの王国です。
100円ショップにサボテンがあるおかげか、道端や道路わきにもサボテン。
およそ園芸が趣味の人であればサボテンから逃げることは不可能です。
ホームセンターやイベント、バザーに何食わぬ顔でサボテンはあります。
障子に目あり、日本にサボテンあり、暖かい場所では地面にそのまま植えるとビルや一軒家、マンションの屋上まで成長することもあります。
ではサボテンは何種類あるのでしょうか?
それこそアロエやエケベリア、ハオルチアとは桁違いに多いです。
多肉植物が80科で1万2500種類あり、その中に含まれるサボテン1科だけで2000種類あると言われています。
Britton, Nathaniel L., Rose, John N. Curt Backeberg Walther Haageなど分類学者によって100年以上前から何度も定義されてきました。そしてようやくサボテンという種の全貌に決着が付けられている最中です。
サボテンは見た目が似ている種類も多く、どうしても形態的な分類法は限界がありました。それは日ごとに満ち欠けが変わる月を別の星と断じるようなもので、たとえプロ級のマニアであっても不可能かつ無意味な作業でした。
かつて素晴らしいサボテンの原種を守るため結成された優型ギムノを守る会がバラバラに解散したように、サボテンは見た目で判断できない植物です。
分類学の勝利
それを変えたのは1993年。
An analysis of nucleotide sequences from the plastid gene rbcL
この論文で植物に含まれる遺伝子から分類する技術が確立されて以来、
分類学者はサボテンを従来より遥かに正確な、進化に基づいた系統樹に従い分類できる技術を手にしました。
Phylogenetic relationships in the cactus family
2000年にSclerocactusで実証された技術は、2002年に衝撃を与えました。
葉緑体ゲノム解析にて広く用いられるtrnK/matKという2577塩基対の配列とサボテン科をより詳細に調べるtrnL-trnFという1123塩基対の配列が用いられ結果的に様々なサボテンが統廃合されるに至ります。
例えばキンシャチ。
A new genus for a well-known cactus: Echinocactus grusonii
直径1メートル、黄金色のトゲに覆われるサボテン科の代表種ですが、
冒険家であり分子系統学にも精通するCactus AdventureのJoël LodéによってEchinocactusから除外され、新属Kroenleiniaに配されました。
解析によればFerocactusを母株とするEchinocactusとの交雑種であり、いっそ種として廃止する選択肢もあったようです。
現在、彼はTaxonomy of the Cactaceaeというプロジェクトを進行しており190属2830種というサボテンの分類における最大級の書籍になるようです。しかし個人による分類は往々にして誤植や間違いを含んでいます。
最新鋭の分類
では、もっとも信用できる分類は何でしょう?
イギリスはキュー王立植物園が公開しているPlants of the World Online
このサイトは、植物分類学という権威において現時点で最も信頼性があるAPGⅣ、いわゆる被子植物系統グループを一般向けに公開しています。
その中でサボテン科すなわち「Cactaceae」は150属1831種です。
しかしAPGⅣそのものは2016年に発表されたもので9年経ったわけです。
現在ではこちらの最新版を参照する方が賢明ですね。
それによれば151属1855種が学術的に認められています。
Classificationというダイアログをスクロールして
Cactaceae_1_core_checklistの横にある+記号をクリックしましょう。
APGⅣから更新され、例えばEriosyce lauiがRimacactus lauiになっています。
Cactaceae at Caryophyllales.org
これぞサボテンにおける分類学の最前線といえるのではないでしょうか。
もっとも従来の分類とのシノニムを確認するにはPlants of the World Onlineを確認する方が速いですね。
内容
CITEsによる分割
それでは本題。
令和さぼてんカタログはPlants of the World Onlineを参考に編集しました。形式としては多くの園芸品種を分けて調べやすくするため、CITEsに従ってAppendixⅠとAppendixⅡの2項目に分けています。
基本的にⅠ類だけ見ていれば有名なものは網羅できるでしょう。
もっともFerocactusやEchinocactus、CopiapoaやEriosyceはⅡ類にあるので、割と手間がかかります。こればかりは【Ctrl】+F のショートカットキー機能でカタログを検索し、PDFのブックマーク機能で補助して頂きたいです。
どんなにマイナーな属や種も微に入り細を穿つように作りましたが、なにせ全種に渡るもので欠落も多々あると思います。ご了承ください。
希少種を買うための付録
ついでに3つ。
カタログ以外にも海外のナーセリーを付録にまとめておきました。
イタリア、チェコ、スペイン、ドイツ、アメリカ、スロベニア、ブルガリア
スウェーデン、スイス、フランス、イギリス、ポーランド、南アフリカ
セネガル、ロシア、ウクライナ、ブラジル、日本、韓国、中国、カナダ
ポルトガル、キプロス、スロバキア、タイ、オーストラリアなどです。
サボテン科の全種を調べるにあたってマイナーからポピュラーまで網羅できるナーセリーです。チェコの業者だけでも国内に出回っている高級品種は殆ど買えるでしょう。
野生絶滅したようなDiscocactus subterraneo-proliferansやアメリカで2万5000ドル、400万円で取引されたHaageocereus tenuisも買えます。
Copiapoaだけしか興味がない偏食家には理解できないかもしれませんが、decorticansやらaphanes、echinata、solarisの種子や繫殖品を売るような業者も書いときました。
もっとも合法的な業者しか私は知らないので、犯罪者が犯罪を犯し輸入した違法サボテンを買いたい奴も、持ってる奴も、他を当たってください、
税関か現地当局に自首しても良いですよ。植物は筑波実験植物園などに寄贈されるので安心してください。
野生的に育てるための付録
野生環境と自生地を調べるにあたり役に立つサイトもまとめておきました。
A Community for Naturalists · iNaturalistというサイトを使えば
アンデス山脈からグランドキャニオンまで、あらゆるサボテンの野生の姿を観察できます。検索欄の横、「その他」にある「場所」という項目を使えば各地域での固有種を確認できるので自生地を巡る際にも役立つでしょう。
Weather Sparkを使えば世界中の地点における気温や湿度、風量、日射量、日の出、日の入り、雨量、雲量、雪量など、様々な要素が確認できます。
Field NumberやiNaturalistで確認した場所、著名なナーセリーの気候情報を調べて自分の地域と比較すると様々なことが分かる筈です。
Windy: Wind map & weather forecastも似たサイトですが、リアルタイムなデータや無料版でも5日後までのデータを視覚的に得られます。
得られるデータは少ないものの、使い勝手はなかなかのものです。
Google Earthも欠かせません。キリマンジャロの山頂や太平洋のど真ん中に座りながら行けるなら、サボテンの自生地に行くなど朝飯前です。
フィルター機能で年単位の航空写真の変化を見れば、サボテンが絶滅危惧種になった理由さえ分かるかもしれません。
まとめ
長くなりましたが、地球上にあるサボテンで鑑賞価値が高そうなもの殆ど、それを販売しているナーセリーも込みで網羅できるカタログという事です。もっとも書き漏らした品種や(Tephrocactus articulatus VG817、Haageocereus fasicularisなど)CITEs Ⅰに指定されているMitrocereus militarisが何故かCITEs Ⅱ類にカテゴライズされているなど明らかに間違いだと思われる瑕疵も多々あると思われますが、寛容にお許しくだされば幸いです。