クロアチアの詩人
古本屋で詩歌の棚を眺めていたら、素っ気ない白い装丁の詩集が目にとまりました。クロアチア出身の詩人ドラゴ・シュタンブクの詩集でした。
シュタンブクは医師・医学研究者で、各国でクロアチア大使を歴任し、駐日クロアチア全権大使も務めました。
そして詩人でもあり、戦乱に翻弄されたクロアチアの歴史を背景にした詩が日本語でも詩集として出版されています。
1995年、ニューデリーでこの詩は書かれたのだそうです。シュタンブクがインド駐在クロアチア大使を務めていた頃です。
そして1995年といえば、クロアチア紛争が終わる年です。隣国セルビアとの5年にわたる戦争で、民族浄化もありました。
東欧の激動のなか、ユーゴスラビアからクロアチアなどの各国が分離独立していく過程で、膨大な悲劇が生み出されました。
同じ地域でともに暮らしたクロアチア人とセルビア人が武器を取り、殺し合わなければならないのは、どれほどの悲しみでしょうか。
「黒い波」に奪い去られるもの。
シュタンブクが何よりも忌避したかったものがなんなのか、彼の故郷の歴史と照らし合わせて読むことで、詩のことばからひしひしと伝わってきます。
こちらも『黒い波』に掲載されている詩です。
2005年にウィーンで書かれた作品です。一人の労働者との出会いを描いた詩ですが、一期一会を大切に言葉にしているのが伝わってきます。
クロアチアに隣り合うボスニア・ヘルツェゴビナにも、戦乱の歴史があります。
民族がいりまじって暮らす土地でも、出自の境界を越えて通じ合えるものがある。そんな希望を描いてみせてくれる詩だと思いました。
詩集にはシュタンブクの詩や人柄に惹かれ、日本での詩集発行を支えた人々の言葉もおさめられています。
海外の詩を読むには、詩人をはぐくんだ国の文化や歴史について知る必要があります。日本とは歴史、文化、慣習などのバックグラウンドが違うため、その国や地域のことを知れば知るほど、詩の言葉がより生き生きと読み手に伝わってきます。
シュタンブクの詩を検索しながら読むことをつうじて、クロアチアという国とそこに住む人々がたどってきた(背負っている)歴史について知ることができました。
何より祖国の悲しい歴史を引き受けつつも(悲しい歴史を引き受けているからこそ?)人間としての優しさを忘れず、人との関わりを丁寧に言葉にしていく一人の詩人との出会いがありました。
海外の詩にもっと触れてみたいとあらためて感じました。
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