妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(①壱)" 邂逅(かいこう) "
拙者は見た…
我が目を疑った…
初めて邂逅した彼奴とその槍…
それは突然訪れた運命の出逢いであった…
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その日…
時刻は丑の刻…
拙者は夜の町を歩いておった
どうも泊まり宿の寝床で
寝付けなかったのだ
拙者の愛刀にして魔剣の『斬妖丸』が
かすかに震えておる…
妖か…
だが、この反応では遠いな…
拙者は着物を着て
『斬妖丸』と『時雨丸』を腰に帯び
宿を後にした
拙者は『斬妖丸』の反応を頼りに妖の気配を追った
近付くにつれ妖気が強まる
拙者にもかなりの強さの妖気を感じる
ついに妖の元へたどり着いた
妖気が最も強く漂う場所…
ここは…
どこぞの藩の大名屋敷か…?
あまり裕福な藩では無さそうだが…
一万石そこそこの小大名と言ったところか
妖気はこの内より強く漂っておる
腰に帯びし『斬妖丸』が強く震え出した
左様か、『斬妖丸』…
お前もこの強き妖の妖気に触れ
早う妖の血を吸いたくてたまらぬ様よのう…
存分に吸わせてくれる故に
今しばし待っておれ
屋敷正面の表門に回ってみたが
この丑の刻に開いておるはずも無く
門番すら門外に立ってはおらぬ
むっ…
この屋敷内は妖の結界が張られておる…
中の者を閉じ込め
外の者を寄せ付けまいとしておる様じゃ…
この様な結界を張れる妖とは
なかなかの強者よ…
相手にとって不足は無い
なれど…
拙者に妖の結界など通じぬわ!
拙者は引き抜きし『斬妖丸』にて
結界の一部を切り裂いた
そして拙者は周りを見回しし後
表門の屋根の上にひらりと飛び乗った
表門から横に建つ長屋の屋根へと伝い歩き
敷地内の様子を満月の明かりにて
透かし見る
すると…
正面に建つ御殿の屋根の上に
拙者と同じ様に立つ二つの人影があった
その内の一方は
当大名屋敷の女中らしき姿…
こちらから強い妖気が漂って来る
対峙せし、もう一方は
一見したところ
拙者と同じ浪人と言った風体だが
なかなかに洒落た身なりの服装である
髪は、やはり拙者と同じく総髪
腰には差料一本のみを差し
その脇に鉄扇らしき物を差しておる
見るからに軍学者と言った風情の男であった
この男は
どうやら人間の様だ
だが、妖とは異質だが…
少し異様な気配が感じられて来る…
この男… 一体…?
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ふふふ… 妖よ
そろそろ正体を見せてはどうだ
この大名家の側室殿の女中になりすまし
主に近付き害せんと致せし事…
某が参った以上
相叶わぬものと諦めよ
すぐに引導を渡してやるゆえ
覚悟するがよい
ああ…
それとな…
貴様の用いし妖の術を某の魔槍に
封じてくれようぞ
某の目的のために
多くの妖の力が必要でな…
ふむ…
今宵は某以外の屋敷内の者ども
悉く貴様の妖術にて眠らされしが
飛び入りにて珍しい来客が参った模様…
そこな客人っ!
其方もこの結界内に入れたからには
只者では無き御様子
某と同業の者とお見受け致した
お初にお目にかかる…
某の名は『由井 正雪』と申す!
これより某と妖との珍しき戦いをお見せ致そう!
其方は決して手を出す事無きよう
その場にて
とくと御覧あれい!
行くぞ、『妖滅丸』!
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何…?
彼奴…
拙者と同業だと申すのか…?
すると彼奴も拙者と同じ妖狩り…
むっ…?
彼奴め…
腰の一本差しの太刀を抜こうとせず
腰の帯に差しし長さ二尺ほどの棒を
手に取りおった…
おおっ!
棒が倍以上に伸び
先端から槍の穂先が飛び出して
長さ五尺余りの手槍に姿を変えた…
『妖滅丸』だと…?
それがあの槍の名か?
あの男、確かに魔槍に封じると申した…
むうっ!
拙者の腰で『斬妖丸』が激しく震え出した
こんなに激しい『斬妖丸』の振動は
如何なる妖でも見られぬ!
『斬妖丸』があの槍に共鳴致しておるのか⁉
あの『妖滅丸』と云う槍…
まさか、『斬妖丸』と同様の…
あの由井 正雪と名乗る男…
彼奴いったい何者じゃ…?
※【(弐)に続く…】