妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(⑬拾参)" 妖怪合戦! "
まるで俺の背中に翼が生えた様だった
俺が右へ行こうとすれば右へ
刀を構えたまま上下左右どこへでも自由自在だった
「どうなってんだ… こりゃあ?」
そう思ってると目の前の大入道が
構えた八角棒で俺に向かって激しい突きを入れて来た
「おおっと!」
俺は文字通り上に飛び上がり
大入道の巨大な突きを躱した
この大入道、デカい割には素早い…
だが、この俺はもっと素早く動ける
いや…飛べるのだ
地上で走ったり飛んだりするのと変わり無かった
だんだんと慣れて来た
「よし、行けるぜ!」
俺は突き出されていた八角棒にトンと飛び乗った
そしてそのまま八角棒を駆け上り
大入道の腕を伝って胸を蹴り顔の前へ飛んだ
「突きとはこうじゃ! てえぇいっ!」
そう叫んだ俺は、驚きに見開かれし大入道の左目に
構えた『大天狗正家』を根元まで深々と貫き通した
「ぐぎゃおおおっ!」
大入道は凄まじい咆哮を上げ
左手で左目を押さえながら目の前に浮かぶ俺を
右手で必死に払い除けようとしやがる…
「けっ! 俺は蠅かよ!
だが、こいつを俺と同じ隻眼にしてやったぜ!」
俺は一寸法師になった気分で蜂のように舞いながら
大入道の顔と言わず首と言わず
突いたり斬ったりと攻撃の手を緩めなかった
大入道は左手で顔を庇いながら
右手に持った八角棒を振り回す
その風圧だけでも凄まじかったが
俺は八角棒が当たる寸前で身を躱した
これこそ剣の達人の俺だから出来る『見切り』だった
俺は蝶のように舞い蜂の様に突く攻撃を繰り返した
この攻撃を繰り返された大入道は
無数の傷の痛みと疲れとで頭を抱え両膝を付いて
地面に屈みこんだ
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「おのれ、柳生十兵衛めっ!
鎌鼬! あの空を飛ぶ柳生十兵衛を撃ち落とせ!
真空乱れ刃っ!」
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「そうはさせぬぞ、由井 正雪!
十兵衛どのの邪魔は許さぬ!
たとえ、本家相手にでも使おうぞ!
鎌鼬直伝っ! 真空乱れ刃っ!」
拙者は構えし『斬妖丸』を縦横無尽に振り
本家の鎌鼬が十兵衛に放った『真空乱れ刃』に対し
迎撃の『真空乱れ刃』を放った
「行けっ! 真空波よ! 撃ち落とせ!」
拙者の放った『真空乱れ刃』は鎌鼬の発した真空波を
次々と撃ち落としていった
続いて拙者は『斬妖丸』で空中に円を描きながら叫んだ
「『斬妖丸』よ! 『鴉天狗』を出すぞ!
出でよ、『鴉天狗』!」
拙者の『斬妖丸』で描きし円から
元服前の少年位の体格で山伏装束をして
鴉の様な嘴をした顔の鴉天狗が現れた
「クワアーッ! クワアーッ!」
「行けっ! 鴉天狗よ! 十兵衛どのを守れ!」
「クワアッ!」
鴉天狗は鋭く一声鳴くと背中の黒い翼を羽ばたかせ
大入道の前を飛びながら戦う十兵衛の傍まで飛んで行く
拙者の命令通り
鴉天狗は十兵衛の背中に張り付くように飛行しながら
十兵衛に対し飛来する鎌鼬の真空波を
手にした独鈷剣で次々に斬り捨てていく
その剣の腕前は剣豪の十兵衛に勝るとも劣らない
何しろ、その昔…京の鞍馬山にて
牛若丸こと(源義経)に
剣を教えたほどである
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「むっ! 何だ、お主は?
妖のくせに俺を鎌鼬から守ってくれてるのか?
青方どのの手の者だな… かたじけない
俺の背中はお主に任せたぞ」
「よし、大天狗正家よ! 大入道にとどめを刺す!」
俺は大入道の頭上に飛び
眩い光を発する伝家の宝刀『大天狗正家』を振りかぶり
「てええーいっ!」
大入道の頭を抱えた両手ごと唐竹割りにて一気に斬り下げた
これだけ大きな大入道の頑丈な頭蓋骨に撥ね返されもせず
『大天狗正家』は大入道の頭を真っ二つに割ってのけた
「!」
大入道は真っ二つに割られた頭から灰色の脳漿と
真っ赤な血を大量にぶちまけながら絶命致した
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おのれえ~!
柳生十兵衛に青龍めがっ!
よくも…よくも…
某の邪魔を致しおったな…
むうう…
それにしても、あの十兵衛の持つ太刀はいったい…?
十兵衛が空を飛びし姿に重なりし影の形は
あれは、正しく大天狗の姿であった…
柳生十兵衛にあの様な技が使えるはずがない…
何者かの術…?
しかし、青龍は『水竜』と『鴉天狗』を使い
自らも『真空乱れ刃』を放っておった
それに加えて十兵衛に大天狗の力を与える事など
出来るはずが…
「分からぬ…」
「ぬ…?
あの青龍と但馬守の後方におる坊主は…?
両手で印を結んでいやがるが…
あの印は… まさか…
孔雀明王印!」
大天狗と孔雀明王と言えば…
そうか!
孔雀王呪経の呪法を修め
自らが『石鎚山法起坊』という大天狗となりし役行者…
役 小角の霊を十兵衛の剣に降ろしおったか…
「あのクソ坊主めがあっ!
鎌鼬! 十兵衛はもうよい!
あのクソ坊主をズタズタに切り刻めいっ!」
残念ながら某にはあの坊主の正体は分からぬ
しかし…
あの坊主が十兵衛にあれほどの力を与えた以上は
生かしておいては青龍と同じく某の計画に
支障を来たすは目に見えて明らかじゃ
青龍を葬るのは難しいが
あの坊主だけでも消しておかねば…
「『妖滅丸』! 『野衾』も出せいっ!
クソ坊主を空から焼き殺してくれようぞ!」
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「むっ!
由井め、『野衾』を出して背中に飛び乗りおった
逃げるつもりか?」
拙者は由井が『野衾』に飛び乗り飛翔する様を見た
だが…
『野衾』が空から火炎攻撃を仕掛けた先を見るや…
「沢庵和尚どの!
そうか、十兵衛殿への大天狗の降臨…
あれは沢庵和尚どのが行なっておったのか…
由井正雪め!
沢庵どのを弑するつもりか!
そうはさせぬぞ!
くっ!
沢庵どのに『鎌鼬』と『野衾』の二匹で攻撃を…
この青方龍士郎が
貴様の思い通りにさせるものか!」
拙者はすぐに沢庵和尚の元へと走った
「『斬妖丸』! 沢庵どのを護るぞ!」